夢が帰ってきた。私が帰宅すると、台所に明かりがついていた。一歩一歩玄関に近づいて行き、立ち止まった。深呼吸をして、ドアを開けた。彼女だった。やっぱり彼女だった。夢は言った。
 「おかえりなさい。ご飯できてるわよ。手を洗って食べてね。」
 私はボーッとしたままテーブルまで行った。いったいこれが夢なのか現実なのか、はっきりわからなかった。彼女がいなかった日々は、洗い流されたように、跡形も残っていなかった。しかし事実はこれが現実であることを証明していた。夢は
 「私、妊娠しているの。」
 と言った。
 「この子の父親が誰かは聞かないでね。私、この子を産むわ。」
 私は自分の聞いたことのないような声を聞いた。
 「あなたが帰ってきてくれただけで充分よ。子供は私たちがいっしょに育てましょう。」

 夢は雨と風のまじる夜、子供を産んだ。彼女の低いうめき声が始まり、豆粒大の汗を顔に浮かべながらもがくのを見ているだけで、私はなすすべもなく、慌てふためいて120番に電話した。救急車が来るのを待つ間、私は夢の手をしっかり握っていた。彼女の手は氷のように冷たかった。私は彼女の痛みがどれだけのものなのかからだで感じていた。
彼女の爪はもう私の肉に食い込んでいた。しかし私にはどうしようもなかった。しっかりと彼女を抱きしめるだけだった。
 「神様、あなたの痛みを私にも分けてください。私もあなたと同じ目にあわせて!」
 私は彼女に大声で呼びかけるしかなかった。
 「夢、夢、頑張って、私たちまだいっしょに生活していかなきゃならないの、私たちまだいっしょに子供を育てて行かなきゃならないのよ。絶対に頑張りつづけるのよ!」
 私は顔いっぱいに涙を流していた。

 夢は手術室に入れられた。

 手術室の外にすわっていた。心の中は何がなんだかわからなくなっていた。医者と看護士が何度も出たり入ったりしていた。ドアが開けられるたびに私はビクビクした。廊下は人気がなく、さみしく音が鳴り響くだけだった。手の傷からは血が流れつづけていた。私は真っ赤な血がポタポタと流れ落ちるのを、一滴一滴見つめていた。輪廻のように、地は流れて、また戻ってくるの?いったい誰のところへ?
失ったあと、また取り戻すことができるの?私は夢が目の前に立っているのを見た。微笑みながら、ずっとずっと微笑みつづけていた……

written by 默默般奔pao
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