阿霧は死んだ。私がひとりにしてくれと言ったあの晩のことだった。夜中にカッターで静脈を切ったのだ。

  私が駆けつけたときには、彼女はもうやっと息をしている状態だった。彼女の顔は血の気がなく、両目は見開いて、私の手をしっかり握った。「阿雁、こんなことするなんてバカなことだとわかっているけど。でも、毎日発狂するほど彼のことを思っていたの。私はまだ彼のことを愛している……もう彼が戻ってきてくれることなんてありえないということはわかっているの。私は彼が憎い!復讐したいの。他に方法がなかったのよ。自分の命でしかできなかったの。彼に一生後悔させてやるのよ!」

  最後に彼女は言った。「私の骨は故郷の山の上の天池に播いてちょうだいね……他の人たちには知らせないでね。人には言えないほどひどい人生だったから。両親に伝えてね。ごめんなさいって。今度生まれてきたら、今度生まれてきたら―――」彼女の頭が傾いた。声はだんだんと小さくなっていった。

  私は彼女の頭をまっすぐにしてやると、小声で言った。「わかっているわ……阿霧、眠りなさい。」彼女の顔をそっとなでて、目を閉じさせた。彼女は安らかに眠るように逝った。

  私はポカンと彼女を眺めていた。私は阿霧を殺した間接的な犯人だった。ここまで思い至ると、私の心の中の一角が崩れた。阿霧の名前が、谷間にこだまするように心の中では響き渡っていた。しかしひとことも言葉は出なかった。涙も一滴も流れなかった。

  愛は元来人を傷つけるものだ。そして、もっとも致命的な傷になるのだ。

written by 草戒指
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2003103115192774

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

最新のコメント

日記内を検索