≪結ばれぬ空【1】≫

2003年12月17日
(一)

  彼はこの恋愛が美しいものではないことを知っていた。


  そのころ彼はシンセンに来たばかりで、貧乏だった。シンセンはなんでもかんでもひどく値打ちが下がってしまうところだ。彼は安徽省の学校を卒業したとき、手にした卒業証書の重みをまだずっしりとそして厳粛に感じていた。しかし南中国の太陽のせいでこの卒業証書のために流した10数年間の汗水は干上がってしまうようで、ゆらゆらと今までの苦労を思い出しては、それはまるで人生と呼べる代物ではないように感じていた。なぜ有名学校を出なかったのか、と後悔した。薄っぺらの履歴書を持って仕事探しに行く途中、道路には陽炎がたち、太陽は目を刺すようだった。彼は自分自身も薄っぺらの紙切れのように感じていた。―――彼自身も労働者カードにプレスされ、初めの工場に放り込まれたのだ。それは小さな工場で、電気釜のテフロン加工をしていた。彼はライン従事の技術屋だった。

  彼の名前は樊得瑞、彼がこれから話すすべては1993年に起こったことだ。現在彼はもうシンセンの小型家電製品の輸出入をする貿易会社経営の前途洋々たる私企業の社長である。彼は言う。「すべての無念さは汗と努力ではらすことができる。」―――そのあと彼の目の奥にはさらに深い色が浮かんだ。―――「ただひとつだけ。。。」彼は知っている。この恋愛が美しいものではないことを。

written by 小刀銀
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