≪結ばれぬ空【5】≫

2003年12月20日
(五)

  樊得瑞は心の中で運がよかったと思っていたのだが、それも2000年のあの電話が徹底的に打ち崩してしまった。それ以前は後ろめたさはあっても、「ひょっとしたら彼女と阿良はうまくやっているかもしれない。」などと都合よく解釈していたが、その電話は彼の最後の防衛線と偽善の祝福を木っ端微塵にした。電話が鳴ったのは夜中の11時近くだった。受話器の向こうの聞き慣れない声は、まさに彼の心の奥底にしまってあったものだった。彼女はきっと痩せてしまっていたのだろう。もう調理場の色白でポッチャリした女の子ではなかったはずだ。その「もしもし」という一声で、彼は彼女の愛を感じ取った。しかし、すべてはもう手遅れなのだ。彼はどうして彼女が電話番号を知っているのかもわからなかったが、彼女がずっと彼のことを気にしていたのだけは確かなようだ。彼女は言った。「私、最後の2300元でこの携帯と電話番号を買ったのよ……。」彼の心は沈んでいった。彼女は笑いながら言った。「万策尽きたわ。」

  彼は何年かぶりに子供のように涙を流した。「どうして?」いまさらわけのわからぬ冷淡さなど必要あろうか。「愛してるよ。」と、彼は言った。

  受話器の向こうの声はただ疲れきって絶望的に笑うだけだった。「うそでしょ。」

  彼は尋ねた。「阿良は?あの阿良ってヤツは?」

  彼は彼女が頭を振っているのを感じた。「彼、私のお金を半分盗んで行ったわ。もうとっくに逃げちゃってるわ。」その夜、二人はほんとうにたくさん話した。一生かかってもそんなには話せなかっただろう。彼は辛抱強くひとつひとつ尋ねた。「お前は今どこだ?どこにいるんだ?」彼女は携帯だから、どこにいたって不思議はない。長ったらしい彼女の初めての自己分析の合間合間にこんなふうに問いかけた。ひとりの田舎娘が、控えめに恥じらいを含みながら、怖気ずに、彼に対する卑屈で望みのない愛を打ち明けた。彼のほうはひとうひとつ泣きながら「もう言うな。もうやめろ。はやく110番するんだ。医者に連れて行ってもらわなきゃ。オレはお前をお嫁にもらうよ。ほんとうだ。結婚しよう!」

  まる2時間だった。受話器の向こうの最後の一言は「私、もう力が出ないわ。子供を作ることなんてできない。―――愛する力も含めてね。―――なんか今月携帯の料金が未納になってるみたい……。」

  彼は向こう側でどれだけの血が滴り落ちているかはわからなかった。ただ後悔していた。いまさら自分の打ち明け話をしたところで彼女の憔悴しきった表情を和らげることさえできないことを。

written by 小刀銀
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