ここ数日、北湾の人々は恐怖と不安を感じ始めていた。眠つけぬ夜、人々はかすかに、ときに連続して、ときにまばらに響く銃声を聞いた。まるで竹林が1列また1列と音に合わせて倒れるような、あるいは嘆き悲しむうめき声が夜空を切り裂いたような音だった。真昼間、墟を行き交う人々はかなり多かった。よく下士官や兵が三々五々うろついていた。北湾の人々はこんな不安を感じる日にはきっと何か事件が起こるだろう、と予感していた。

  この日、北湾じゅうかなり落ちついた状況だった。意外にも人々を恐怖させる銃声は聞こえなかった。まるで暗雲がたち込める空に、雷鳴が鳴り響いた後、また暖かな晴れ間が現れたかのようだった。

  夜になった。月も星も見えなかった。北湾全体が自分の指先さえ見えないほど真っ暗だった。李銘はこのころ旅館を発ち、村の古びた石橋を渡り、約束通り地主の家にやって来た。

  彼らが花園を散歩しているとき、小青は言った。「銘、最近父はいつも門を閉めてお客さんと会わないの。よその人とは会わないのよ。でも、私はやっぱりあなたに父と会ってほしいの。」

  銘は笑った。「それはもうすぐ義軍が攻めてくるからだろう。」そして言った。「小青、恐くないのかい?」

  「私がなぜ恐がらなきゃならないの?」小青は言った。「ただお父さんが心配なだけ。でも、ほんとうは戦になろうがなるまいが、義軍であろうがなかろうが私にはどうでもいいの。彼らが私たちの邪魔をしなけりゃそれでいいのよ。」

  暗闇の中、李銘は小青の手をしっかりと握った。

  地主の娘は李銘をつれて庭を抜け、家来が見張りをしている裏の花園に侵入し、地主の住んでいる建物の前にやって来た。

  「小青、」李銘はその建物に入ろうとしている小青に向かって言った。「あなたはここでしばらく待っていてくれないか?」

  小青は笑ってうなずいた。小青は李銘のかすかな姿を見ていた。甘い感覚が彼女の全身を浸した。

written by 林.向
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