しかし、私は彼女に話していないことがある。人の世のすべてのことが懐かしくなってきたのだ。銀白色で測り知れないほど深い海、単純な形の山、泉、やさしい女。何年も経ったが、それらはずっと変わったことがない。日の出日の入りさえも。私はだんだん嫌になってきた。彼女が私の肩に寄り添ってくるとき、私の視線は遥か遠くの都市に向けられている。闇夜でも昼間でもその明かりは明々と点っている。

  楊過と小龍女はただの物語かもしれない。人間はみなどんなことにでも嫌気がさすことはある。人に欲望がある限り。

  私はずっと山の上にいる。麓のことは関係ない。もう何年も何年も経った。もう耐え切れなくなった。

  水沙、行こう!ここを離れるんだ。そしてすべてを変えるんだ。私は心の中で彼女に言った。銀白色の海の砂は寂しい波の花を輝かせていた。それは千年間変わっていない。

  その日の朝、いつもより早く目が覚めた。水沙がそばにいない。私は眠い目をこすりながら探した。そして清く澄んだ泉のほとりに彼女が坐っているのを見つけた。私は彼女の氷のように青い瞳をはっきりと見た。顔には尽きることがない憂いが浮かび、清く澄んだ涙が彼女の顔をつたった。そのしずくはずっと流れて泉の中に入っていった。泉の水は彼女の涙を含み、流れて行った。―――ふもとまで。私たちとは関係のない世界まで。

written by 羽虎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004010822360192

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