三

  私は弱りきってフラフラと飛ぶ蝶に出会った。彼女はもう過去のすべてを忘れ、ただぼうっとして私を眺めていた。彼女はかつて人の世で私の妻だったのだ。私の霊魂が抜けて行くとき、彼女の恨みと悲しみであふれる目を見た。私の死後、彼女はたったひとりですべての現実を受け入れていかなければならなかった。私は黙ったまま近づいて行った。力いっぱい彼女の年老いたからだを抱きしめた。彼女はこんなにも弱々しくなっていたのだ。彼女の目には生気がなく、少しの痛みもなく、責めることもなく、思いもなかった。彼女が私の死体を抱きしめたとき、目には測り知れない深さの恨みが込められていたのを忘れてはいない。昔私が彼女に残したものを思い出したくはなかった。それは彼女にとって受け入れられないものだとわかっていたから。

  私は前にも言ったようにわがままだ。私はほんとうに人の世のすべてを受け入れたくないのだ。蝶よ、すまない!彼女の両目の空洞が私を見ている。雪のように白い髪を空中でなびかせている。背後には果てしない銀白色の海が広がっている。彼女の顔は以前のように美しかった。ただもうすでに私のことは忘れていた。彼女は苦痛も忘れていた。そして私の罪も。私はうなだれて、狂ったように笑った。魂がゆらゆらと落ちて行くのを感じながら。

  蝶はぼんやりしながらあの広い橋を渡って行った。思ったとおり後戻りもしなかった。忘れてしまったその瞬間から、彼女はもう幸福だった。

  私は原野に立っていた。蝶の魂は雪のように冷たく、すでに右手を失っていた。

  私は突然蝶がもう年を取ってしまっていることに思い至った。私はどれだけの間水沙を愛していたのかがわかった。人の一生分ぐらいだった。

  妻にすべてを忘れさせてくれてありがとう。これは彼女の最高の寛大さだった。私は水沙の柔らかいからだを抱きしめていた。

written by 羽虎
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