≪悟空【1】≫

2004年3月1日 連載
  関外ゴビ沙漠のとある旅館。

  旅館はそれほど大きくないが、西域の道とを結ぶ重要な中継地点である。旅館は毎日南北を行き来する旅商人や流れ者などいろいろな職業の人が集まる。旅館の主人は立派なひげをたくわえている。若い世に知られた大人頃は物だったそうだ。こんな大人物だからこそこんなところにこんな旅館をやっていられるのだが。

  この日は、人が特別に多かった。中国人、西域人、騎馬族、ラクダをひっぱる者、白い布を頭に巻いた者、刀を背負っている者、どんな民族でも選り取り見取りだ。彼らは他ならぬ旅館で飲み食いする客たちだ。ひげの主人がカウンターの前に立って、手を叩いた。客たちはみな静かになり彼を見た。主人は客の興味をそそる様子で、よく通る声で言った。「みなさん、本日はこんなににぎやかです。私はみなさんのために出し物をご用意しております。」店内の一癖もふた癖もある客たちがにわかにざわめき出した。主人は笑って、「みなさん、残念ながら本日はお色気嬢のストリップではありません。おとといの夕方店の前で乞食を引き取りました。彼は話したり歌ったりの芸人でございます。そして世の中の変遷を長い間ずっと目にしてきた生き証人でもあります。この芸人の芸はなかなかのものでございますよ。みなさんには思いもよらないでしょうが、彼が話す物語のレベルはこの沙漠の大きさ以上なのです。その夜、私は彼の話を聞いて、思わず引き込まれてしまいました。お茶を飲むのも忘れ、飯を食うのも忘れてしまうほどでございました。」

  ある有名な中国の剣客が言った。「おやじ、そんなにすごいのか?」ひげの主人は笑って、「すごいもすごくないも、ご自分でお聞きになってみてくださいませ。」と言った。その後、2階から三弦を持った年老いた乞食がゆっくりと降りてきた。身なりはボロボロで、幾星霜を過ごした顔色も悪かった。しかし目はらんらんと輝いていた。店内の各人種たちは静かにこの乞食を見ていた。そして乞食の身体から発する言いようのない雰囲気に引き込まれていった。年老いた乞食は抱拳(古来からの儀礼で片手でこぶしを作り胸の前でそれをもう一方の手で包む)して、「皆様、歓迎ありがとうございます。老いぼれ乞食は皆様にお見せするような特別な芸は持ち合わせておりません。ただこの数十年変わった体験をしかことをお話しするだけでございます。皆様がおもしろいと思っていただければ、この老いぼれはうれしいのでございます。」と話した。

written by 白玉堂
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004011823351608

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