≪もしこれが愛なら【3】≫
2004年3月18日 連載 次の日、海面に出て、人の世に行ってみた。初めてこんなに近くで青空を見た。人を見た。私はめいっぱい飛び跳ねた。夜になり、静けさに包まれると、突然簫の音が聞こえてきた。美しい簫の音は、低く沈み、物憂げに私の300年の歩みに付き添ってきたのだ。私はどうしてもこの音がどこから来るのか知りたくて、眼術を使った。するとたちどころに目の前の夜の風景が真昼のように明るくなった。それほど遠くない岩の上にひとりの美しい男が坐っているのが見えた。彼の要望は父王に劣らないと断言できた。以前母后が言っていた人の世に満ちる人を欺く簫の音というのは、目の前のこの男が吹いていたものだったのだ。ただ不思議に思った。なぜ300年も簫の音が高く低く続いてきたのか?人の命には限りがあるのではないのか?、と。姉が言ったことがある。人間は長く生きても寿命は100年。それならなぜ彼は、300年も生きてこられたのか?私は思わず胸が熱くなり、彼の元へ泳いで行った。私がもう少しで彼のところに泳ぎつくというとき、彼は突然立ち上がった。まさか彼に私が見えたのか?ありえない。私は遁身の術を使っていた。たとえ彼が何でも見ぬく眼力を持っていたとしても、見ることはできないはずだ。まさか彼も人魚だと言うのか?その男は狂ったように私に向かって来た。それを見て私は驚き立ち止まった。私の思考は瞬時に停止してしまった。なぜ、彼に懐かしさを感じるの?なぜ、彼は母后の名前を叫んでいるの?「連裳、連裳、連裳!」と。なぜ、彼はあんなに若いの?私は気を失った。
written by 羽貝
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004022121180929
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