それから、彼は彼女に近づいていき、湖の水面のような安らかで澄んだ目をのぞきこんだ。そのとき、彼は魂を抜き取られるような美しい声を聞いた。「あなたは私とずっといっしょにいたいですか?」

  この言葉は彼女が自由な意志を持っていることを意味していた。これはまさに彼の期待通りの結果だった。夜露が彼の額に落ちた。染み透るような冷たさがだんだんと全身に広がっていった。そしてついには彼を完全に包み込んだ。そして、考える暇もなく彼は彼女の名前を叫んでいた。:「Eve、もちろんいっしょにいたいさ!」

  「いっしょにいたいさ!」

  その言葉が終わらぬうちに、彼は見た。:周りの水のカーテンがそれと同時に蒸気と化し、瞬く間に影も形もなく空気の中に消えてしまったのだ。水のカーテンの背後には果てしない広野と大空が広がっていた。―――頭では想像できないほど広い、どんな言葉をもってしても表現できないほど広い(残念ながら、“広い”としか言いようがありません)世界だった。

  しかし、彼が水のカーテンを通り抜けるとき、2種類の音がはっきりと彼の耳に響いた。

  左の耳に届いたのは、以前の世界での最後の彼のうめき声だった。

  右の耳に届いたのは、彼女が彼を呼ぶ声だった。「Eden、こんにちは。」

  水、それは彼が通ってきた道に過ぎなかった。しかし今、「彼は死んだ。」とか、「彼は生まれ変わったのか?」とか言えるのだろうか?そして、彼がひとつの世界を去り、もうひとつの世界を創り出した、ということをだれが想像できるのだろうか?

written by 發炎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004030209405236

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