交差点まで来て、赤信号が点ると、それにつれて彼女の目も輝きだした。彼女は突然私の顔を見つめた。そしてまたあの“三日月”が現れて、「プッ」と吹き出した。「つまんない話ばっかりしちゃったわ。あなたはまだ言いたいことの半分も言っていないでしょうにね。」「ハハハ。」私はそのとき腹の底から笑った。私はめったに笑わないほうで、ほんのスズメの涙ほどの笑いなのだが、このときの笑いは“バカ笑い”というやつに違いなかった。

  彼女は私の額をながめていた。いや、正確に言うと見つめていた。「強情ね。こういうオデコの人は強情なのよ。」彼女はわざとため息をついて見せた。

  「え?まさか、人相も見られるのか?」

  「そうよ、最近人の顔を研究してるの。だって、こんなにたくさんの人がいて、同じ顔の人はいないんだもの。これって興味深いことじゃない?」彼女の考え方は目まいがするほど独特なものだ。「君のほうがもっと興味深いよ。」という言葉がのどまで出かかった。でも、私は口に出さなかった。それは人をほめることになるのだが、私はちょっとやそっとで人をほめる人間ではなかったのだ。

  「それじゃ、ボクの目どうなんだい?」

  彼女は目線を下げてきて、私の目線に合わせてきた。私は想像もしていなかった。こんなやり方、バカげてる。こんなことをするものだから、4つの目が向かい合ってしまった。その前の数分間は、こんな事態を避けていたのだが。私の中に赤い嵐が吹き荒れた。赤い台風はすでに私の耳元にまで達しようとしていた。そのときの惨状は思い出したくもない。彼女は私よりずっと自然だった。ずっとずっと。彼女がうつむくと、三日月がまた現れた。「目が活き活きと輝いてるわ。これはあなたがきっと成功するっていう証拠よ。」そのあと彼女はすぐに顔の向きを変えた。私の胸はドキドキしていた。恥じらいは男にとっては醜態だ。特にえらそうにしている男にとっては。

  私の台風警報が解除されると、やっと「人の心を理解する」という言葉が思い浮かんだ。これも一種のほめ言葉だろう。めったに人をほめない私から見れば、おもねりへつらうようなもの。だから私は思ったことを口には出さなかった。

  彼女が歩くリズムはちょっと速めだった。しばらくすると私たちは郵便局に着いた。

  彼女は傘をたたむと、ドアのところに逆さまにして立てた。私にはなぜ逆さまにするのかはわからなかったけれど。突然彼女は振り向いた。三日月が彼女の顔にまた現れた。「逆さまにするのは倒れにくいからよ。わかる?ハハハ。」彼女は手紙を取り出すと、腰かけて、切手を貼り始めた。口を開けたままの私をそこに残して。これは思慮深い人のする格好ではなかった。白痴のようなぼうっとした顔といったほうがピッタリだった。すぐに彼女は手紙をポストに入れた。そして私にアカンベをして見せた。「早く荷物を取ってこれば?かっこつけちゃって。」そしてさっと郵便局の入り口まで行き、手を伸ばして雨が止んだかどうか確かめると、また私のいる方へさっと戻ってきた。私は荷物を受け取りながら、この様子を観察していた。彼女のそんな様子は、私の彼女に対する行動が物珍しかったからと言えなくもなかった。

  「もう雨も降りそうにないし、晴れちゃってるから。それに私、友達の家に行かなくちゃいけないし、道が違うわね。ここでお別れね……同級生さん。」私の反応も見ずに、彼女はさっと入り口へ行ってしまい、傘を取った。そして別の方向へ歩いていった。そのとき、私の中に何か言いたいことがあったような気がしたが、彼女のことを呼び止めもしなかった。私はまた腹を立てた。彼女は礼儀知らずな女の子だ。「さよなら」も言わないで、と。

  その後、月曜日になり学校に行った。私はわざわざアシがつかないように調べてみた。学校のN年生はこんなにたくさんいるのに、嘉千という名の生徒はひとりもいなかった。私は彼女がうそを言ったのだと思った。でも、どうして彼女がうそを言ったのかさっぱりわからなかった。

  それ以来、私は何度も雨の日に郵便局へ行ってみたが、もう彼女に会うことはなかった。

written by Fu単質
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004040502094066

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