8

  この4月の最後の日、私はとうとう手術室に運び込まれた。

  3年前、医者は私を骨肉腫と診断していた。もう残り少ない命だと。手術の成功の確率は数%だった。そして今、私にはもう恐れることはない。たとえ1%の確率でも、頑張ってみようと思う。だって、如眉が言ってくれたのだから。ボクはきっとだいじょうぶだ、と。

  無酸素病棟の明るい窓ガラスの向こうに、小雨が私に手を差し伸べているのが見えた。私の手をたたこうとしているのだ。私は笑った。

  窓の外、この季節ずっと降り続けた雨がやんだ。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
  もう一度外を見ると、もう並木は牙をむいたり爪を出したりはしていなかったが、1本1本が一瞬のうちに白衣の少女に変わった。少女は長い髪を風になびかせていた。私は彼女の顔に涙を見とめた。如眉、まぎれもなく如眉だった!私は大声で叫んだ。「如眉、君なんだろ?ボクに復讐しにやってきたんだろ?でも、でも、小雨だけは助けてやってくれ。彼女は無実だ……」

  車はキキーッという音をたてて停まった。私はおびえる小雨の手を引いて車を降りた。このとき初めて車が学校の門の前に停まっているのがわかった。

  如眉はそこに立って、冷たいまなざしで私を見ていた。

  空からは雨が降り始め、如眉と私と小雨をすっぽりと覆った。

  「四毛、あなたはほんとうに私が必要ではなくなったの?四毛、ほんとうに私のことが邪魔になったの?」

  私は小雨の手を放し、言った。「如眉、そうじゃないんだ。ちがうんだ……」

  如眉の涙がこぼれた。顔じゅうに涙があふれた。そしてその言葉を繰り返すだけだった。「四毛、あなたはほんとうに私が必要ではなくなったの?四毛、ほんとうに私のことが邪魔になったの?」

  如眉は冷たく私を見つめ、突然向きを変えて歌を歌いながらむやみやたらに前に進み始めた。:“空は真っ暗今にも雨になりそう、空は真っ暗暗……”如眉はだんだん遠ざかっていき、声もだんだん小さくなっていった。私はふと前方が工事したばかりの数十mの深さの穴だと気づき、大声で叫んだ。「如眉、如眉停まるんだ!」しかし、如眉は何も耳に入らない様子だった。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
  車はゆっくりと出発し、だんだんとスピードを上げていった。私と小雨は車の中で右へ左へと揺られていた。小雨の額はもう少しで硬い座席の背もたれにぶつかりそうになった。私は大声で言った。「運転手さん、もう少しゆっくり運転してもらえませんか?」

  運転手は答えなかった。ただ身の毛もよだつような冷ややかな笑い声だけが聞こえた。

  薄暗いライトで照らし出され、音をたてて過ぎてゆく道端の並木が、突然いっせいに牙をむき爪をふるいだした。小雨はびっくりして私の胸に飛び込みからだじゅうを震わせた。私はしっかりと彼女の手を握り、「怖がらなくてもだいじょうぶだ。」と、なだめた。

  車のライトが突然消えた。小雨は震えながら私の名を叫んだ。「四毛、四毛!」

  「ボクはここにいるよ、小雨。ボクはここだよ。」

  その後、ライトが再び点灯したが、不思議なことに運転手は影も形もなく消え失せ、ハンドルだけが右へ左へと動いていた。スピードもだんだんと上がっていった。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
  だんだん暗くなるにつれて、気温も下がり始め、私と小雨は寒さを感じ始めていた。小雨が言った。「やってみようよ、心の中で暖かさを感じるだけで、寒くなくなるかもしれないから。」

  私は小雨の言うとおりにやってみた。そのおかげでかなり暖かくなってきた。あたりが真っ暗になる前に、急いで学校に戻ろうと、私たちは走り始めた。そしてお互いを励ましあった。:真っ暗になる前に学校につけると信じていれば、きっと学校にたどり着ける、と。

  私と小雨は抜きつ抜かれつしながら走った。道路にはほとんど車は通っていなかった。周りの野原は私たちの足音と呼吸しか聞こえないほど静かだった。真っ黒なアスファルトはまるで物憂げにとぐろを巻いている大うわばみのようだった。小雨は私の手をひっぱり恐る恐るその上を走った。大うわばみが目を覚まして私たちをまる飲みにしてしまうのではないかと心配しながら。

  たまたま一台の車が通りかかった。私たちは手をつないで道路の真ん中で通せんぼしたが、車はうまく私たちのそばをひゅうっとすり抜けて、まったく停まろうという気もないようだった。

  絶望しかけていたとき、黒塗りでアスファルトとほとんど一体化してしまっている1台の車が急ブレーキで私たちの前に停まった。

  「町へ戻るのか?」ドアが開き、運転手がしゃがれた声で言った。彼はハンチングを目深にかぶっていた。車の薄暗いライトが彼のやせたからだを映し出していた。物の怪のようだった。私たちは思わず身震いをしたが、小雨の足のケガのせいで選択の余地はなく、車に乗り込むしかなかった。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
7

  私と小雨が桃の林を出てきたとき、やっと来るときにはわからなかった道を見つけることができた。

  私たちは同じような大きさの石ころを拾って、歩いて行く道に置いていったのだ。こうすることで、どの道が歩いてきた道で、どの道が初めての道なのかがわかった。でもそのうちに、いったい何度同じところを行ったり来たりしているのかわからなくなったが、気がつくと、私たちはまた、あの桃の花が敷き詰められた谷川縁にたどり着いていた。私たちが置いてきた石ころはひと山ひと山白っぽいかすかな光を発し、ひとつひとつが気味の悪い小さな墓のように見えた。その上、中から低い啜り泣きの声まで聞こえてきた。

  見る見る間に空は暗くなってきた。私はふと小雨が木に書いた字を見せてくれたことを思い出した。:「小雨、君は心に思い浮かべるだけで実現することができるって言ったね。それならボクたちが桃の林を抜け出すことを一心に思い描くだけで、ほんとうに抜け出せるってわけ?」

  「そうよ、私、どうしてそんなことに気づかなかったのかしら!」小雨は興奮して飛び跳ねた。

  こんな信念を持って、私たちは迷路のような桃の林を抜け出した。クラスのみんなが集まっていた場所にたどり着いたときには、彼らはみな帰った後で、ただ果物の皮や瓜の皮、ジュースの空き缶が残っているだけで、風でカタカタ音をたてていた。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
  私は頭をもたげた。桃の木にはのたくったような2行の字が彫ってあった。:四毛は大ブタ、如眉は子ブタ。上の行はわりにきれいな字だ。如眉が小刀で彫ったものだった。下の行はいい加減な汚い字だ。私が石ころで書いた字だった。

  でも、私と如眉が字を書いた桃の木がこんなところにあるとは思ってもいなかったので、ちょっと驚いた。

  「ほんとはね、あなたが心の中で思い浮かべるだけで、それは必ず現れるのよ。」小雨は微笑んだ。「ほら……」

  小雨が指す方向を見ると、ほんとうにどの木にも見慣れた2行の字が書いてあるのが見えた。今このときに、私と如眉が桃の林の中で追いかけっこをしているかのようだった。如眉は私のことを大ブタだと言い、私は彼女のことを子ブタだといって追いかけて……

  しかし、私が桃の木の前まで行くと、木に書いた文字はパッと消え去ってしまった。やはりすべては幻だったのだ。

  彼女は如眉ではないにせよ、少なくとも魔法使いではあるようだ。

  もしかしたら、彼女は私が如眉を探すのを助けてくれるのでは、と思った。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
  そして、彼女は葉っぱを1枚摘み、ピーピーと草笛を吹いた。はるかに離れてはいるがはっきりとした音が桃の林にこだました。それは何かの歌だった。よく知っているメロディーだった……

  「如眉、ほんとうに如眉なのか?」私は彼女の手を取った。私はその歌が如眉がいちばん好きだった≪真っ暗々の空≫だと気づいた。

  彼女は笑った。「私は小雨よ。」

  「それなら、今の≪真っ暗々の空≫は君?」

  「そうよ、私、さっきみんなに罰ゲームで歌わされていたの。」

  「ああ。」私は手を離し、気まずい思いでうつむいた。

  「ほら、あの桃の木に字が書いてあるわ。」小雨は興奮して叫んだ。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
6

  かすかな意識の中、突然私を呼ぶ声がした。彼らが私を探しているのだ。目の前の小川は桃の林の奥を通り、生い茂る桃の林に囲まれて、普通の人には見つけにくい状況であるということがやっとわかった。

  彼らの声がだんだんと近づいてきた、と思うと、また遠ざかっていった。私は答えなかった。私には自分のための小さな空間が必要だった。狼狽した心を整理する必要があった。

  どれくらい時間が経っただろう。誰かが私のほうへ向かってくる足音を聞いた。そして私のそばにそっと腰かける気配を感じた。私が振り向いてみると、それは転校生の女の子だった。私はうつむき、気にも留めずに、流れる水と向かい合っていた。

  彼女は微笑みながら私を見ていた。そして手を差し伸べた。:「こんにちは、私、小雨です。」

  私は頭さえも上げなかった。:「ああ、四毛だ。」

  「私、あなたの名前は知っています。」彼女は私を見て笑った。鈴の音のような笑い声を聞くと、そばに如眉がいるのでは、と思ってしまう。

  そのあとしばらくの間、沈黙が続いた。私たちの目の前の桃の花だけが風に吹かれてはらはら舞い、にぎやかに谷川へと落ちていった。まるで夢をいっぱいに載せたたくさんの小船がふわりふわりと流れて行くようだった。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
  「如眉、君なのか?」私は思い切って彼女に近づいていった。

  少女の手は一瞬止まった。そしてゆっくりと頭を捧げもって、そっと首の上に置いた。長い髪が顔を覆い隠していた。彼女は髪をかきあげると、頭の前と後ろを間違えて置いたことに気づいた。そして両手に力を込めてねじると、頭はまともな位置に収まった。しかし長い髪は顔を覆ったままで、まるで雨後の野原に生えた巨大なキノコのようだった。

  彼女のか細い手が前髪をかきあげた。そして私は彼女の顔を見た。そう、まさしく如眉だった。

  如眉は私を見ていた。涙がどっと流れ出し、彼女はそれをぬぐった。はらはらと流れる涙といっしょに、目玉まで流れ、彼女の手のひらに落ちた。涙は血のような赤さに変わった。

  彼女は目玉を元に戻したが、悲しみで涙が止まらず、何度も目玉を流れ落とした。入れては飛び出し、飛び出しては入れるの繰り返しだった。悲しみはとどまるところを知らなかった。

  私が如眉に近づいていくと、彼女は手を差し出した。しかし、それをつかむことはできなかった。すべては一瞬で幻と化し、如眉は煙のように私の指をすり抜けていった。

  一面のピンク色の花びらが水面に揺れ、立ち込めた香りが私のそばをかすめていく。すべてはまるで夢のようだった。

  私は谷川縁の青々とした草地に腰を下ろし、サラサラと流れる川の流れを見ていた。そして、ふと、私の如眉がほんとうに水のように遠くへ去ってしまったのだ、と感じた。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
5

  その日はクラスの春の遠足だった。私はもともと行きたくなかったのだが、クラスのみんなは私が落ち込んでいるのを見て、どうしても私を引っ張っていこうとした。「しかたない。青秀山にも長いこと行っていないことだし、私と如眉が木に書いた字がまだ残っているか見に行ってみることにしよう。」

  青秀山は桃の花が満開だった。あたりは一面ピンク色だった。私は如眉が桃の林の奥深くに隠れているのではないか、などと思い、ひとりで桃の林に向かった。

  遠くでは、クラスメートたちが大きな輪になって、順番に出し物を演じていた。大声で叫ぶものもいれば、拍手するものもいる、叫び声をあげるものまでいる始末。しかし私が遠ざかって行くにつれて、声はだんだんと小さくなっていった。

  突然、かすかに私がよく知っている歌を歌う声が聞こえてきた。;“私に生きる勇気を与えてくれる人を愛した、これこそが私が求めていた世界、でも遮二無二突き進めば誤解されたりだまされたり、大人の世界の裏にはいつもこんな欠点が、私は毎日分かれ道に突き当たる、昔の単純で美しかった小さな幸せが懐かしい、愛はいつも人を泣かせ満足させない、空は広いけれどはっきりとは見えない、とっても孤独……”

  「如眉、如眉じゃないのか?」

  歌声は不思議なことにパッと消えてしまった。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
4

  今年の4月どんよりとした空の下、また霧のような雨が降り始めた。

  その日の早朝、つまらない早朝学習の後、担任の先生が教室に入ってきて、転校生を紹介した。そしてクラスのみんなは力いっぱい拍手して歓迎し、何人かの男子は叫び声さえ上げていた。私はそれに反応もしないで如眉が私のメモ帳に書いた字を見てぼうっとしていた。目に入ったのはしとやかに近づいてくる人影だった。そして私の隣に嫣然と腰かけた。

  「如眉、如眉戻ってきたのか?」

  私は彼女に向かって如眉の名を叫んだ。女の子は親しげに首をかしげ、微笑みかけた。彼女は如眉ではなかった。

  私はクラスのみんなに大声で抗議した。「如眉の席にほかの人をすわらせるな。」と。しかし、誰も理解してはくれなかった。

  授業が終わり、女の子は私の手に手を添えながら言った。「ごめんなさいね。もしだめなら、横の席に変わりましょうか?」

  「いいよ、そんなの。」私は無表情で答えて教室を出て行った。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
  私は如眉がいちばん受けたがっていた高校に合格した。しかし、私はだれとも同じ机にすわらないと頑張り続けた。ひとりで教室の最後尾の列にすわっていた。私は頑固にここは如眉の場所だと思っていたのだ。隣りの空席を見るたびに如眉のことを思い出した。如眉の暖かかった手を思い出した。如眉の鈴を転がすような笑い声を思い出した。如眉の歌った歌を思い出した。“私が子供のころ、さわがしくわがままだったころ、おばあさんが歌を歌って私をあやしてくれた、夏の日の午後、昔々の歌が私を癒してくれた、あの歌は確かこんなふうだったはず:空は真っ暗今にも雨になりそう、空は真っ暗暗……”

  放課後の帰り道、私は何度も如眉にそっくりな女の子を見かけた。私からそう遠くないところに現れるのだが、あわてて追いかけると影も形もなく消え去ってしまう。振り向くとその女の子はそこに立って空を見つめている。透き通った瞳に流れるものは尽きることのない悲しみだった。

  こんな幻覚をずっと消し去れなかった。如眉は私の心の中で渦巻いて、どんどん沈んでいった。どれだけ深いかわからない底なしの穴に沈んでいった。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
3

  その4月から、私はいつも如眉の存在を感じるようになっていた。彼女は私に取り憑いて離れようとはしなかった。

  私はよく真夜中、低い泣き声で目を覚まされる。窓辺を見るとそこには白い影が漂って、机の上の本はページがめくられパタパタ音がしていた。私は寝返りを打って起き上がり、電気スタンドを点け、ドアを開けて、如眉に話しかけた。「君なのかい?」

  誰も答えなかった。部屋へ帰ると、明かりが不思議な消え方をした。本は机の上に静かに置かれているが、ドアはギーギーと何度も開いたり閉まったりを繰り返した。

  私は布団をかぶった。すると布団がだんだんきつく絞められる感じがした。だんだんと絞めつけられていく。まるで誰かが力いっぱい私の首を絞めているようだった。私は大声で如眉の名を叫んだ。絞めつけられた布団の力は急に弱められた。

  このような状況がだいぶ長く続いた。私はもう寝返りを打って起き上がらないようにした。私はいつもその白い影に一言、「如眉、おやすみ。」と声をかけるようにしているだけだが、それで、すべては静かになった。

  早朝ベッドから出て、顔を洗い、浴室の鏡に映った顔を見ると自分の顔ではない。如眉だった。彼女は恨めしい顔で私を見ていた。そして笑い始めた。冷ややかな表情だった。私が手を伸ばすと、ガラスがパリンという音をたてて割れた。鋭いガラスの破片が私の手に突き刺さり、深紅の血が流れた。両親が物音を聞きつけてやって来ると、ガラスは傷もなく元通りに戻り、血はすばやく逆流してからだの中に返っていった。私は落ち着いているふりをして、「だいじょうぶ、なんともないから。」と両親を安心させた。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
  霧雨は如眉の髪を濡らしていた。黒く湿っぽい霧のようだった。

  そして、今度はほんとうに霧のように如眉は私の視界から消え失せた。

  屋上からの高さが、私の如眉を一瞬にして呑み込んだ。

  私は狂ったように階段を駆け下りた。7,8回は転んだだろう。不思議なことに通路はとても静かで、私のつまずきながら走る音だけが聞こえていた。普段この時間ならたくさんの生徒が通路でガヤガヤと騒いでいるはずだった。階段の明かりが、ひとつまたひとつと私が駆け抜けていくにつれて消えていった。振り向くと、如眉が暗がりの中に立ち、恨めしい目で私を見ているのが見えた。彼女はつぶやいていた。「四毛、あなたはほんとうに私が必要ではなくなったの?四毛、ほんとうに私のことが邪魔になったの?」

  私は手を伸ばして如眉を捕まえようとしたが、何もつかめなかった。如眉の目には鮮血が溢れ始め、私の手のひらにポタポタ滴り落ちた。氷のように冷たかった。

  私はヨロヨロしながら階段を下りていった。そして人だかりの中に如眉を見つけた。彼女は血の海の中に横たわっていた。血のように赤いバラの花のように。

  如眉の目は私を見ていた。次第に彼女に近づいていく私を見ていた。彼女の目の奥底には測り知れない恨みが込められていた。私が如眉を抱き上げたとき、如眉は急に手を伸ばし、私の顔に5本の真っ赤な血の跡をつけた。そして数秒間私を見つめた後、手から力が抜けていった。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
2

  私たちがどちらも15歳の年のことだった。私はちょっとかっこよく、ちょっと傲慢な男子で、ひとりで遊び回るのが好きだった。一方如眉は美しく魅力的な女の子で、その笑顔はどんな男子も虜にすることができた。

  そんな甘酸っぱい年頃の私と如眉は、すぐに甘酸っぱい過ちを犯すことになるのだった。

  その日、私は如眉に別れ話をした。その日も同じように小雨のそぼ降る日だった。夜の自習が終わって、私は如眉の手を引いて学校の屋上に登った。空には小ぬか雨が濛々と降っていた。それは如眉が特別好きな季節だった。彼女は言った。「雨にも人間性があるのよ。一滴一滴がある気持ちを表しているの。梅雨の季節は憂鬱があふれ出す季節なのよ。」私は如眉の手を握り、どう切り出せばいいのかわからないでいた。

  如眉が言った。「四毛、高校入試は私たち同じ高校を受けるのよ。わかった?」

  「でも如眉、ボクら、ボクらはいっしょにいちゃいけないんだ。別れたほうがいいんだ。」

  私はうつむき、とうとう決別の話を切り出した。

  如眉は私を見ていたが、これが真実だと信じようとはしなかった。彼女は私の手を揺すぶりながら、「ウソだと言って」と言った。私は何も言わず、首も振らず、言葉を取り消そうとはしなかった。心を鬼にして考えあぐねた末の決断だったのだ。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107
1
  私は4月の窓辺にすわって、窓の外でしとしとと降る小雨を眺めていた。

  雨は芭蕉の葉にポタポタとあたる。

  私にはこのじめじめした空がいつ晴れ上がるのかわからない。それはまるで私の心の奥に焼きつけられた傷跡がいつ癒されるのかわからないのと同じだ。いつもこの梅雨の季節になると、ますます長年の関節痛にも似た痛みが骨身にしみる。夜通し眠れぬ夜が続き、夜通し窓辺にある影が揺らめくのを見る。

  私は自分に語りかける。怖くないよ。あれは如眉。私の如眉。私が如眉を傷つけるはずがない。

  でも私はまぎれもなく如眉を傷つけていたのだ。

written by 連鋒
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004031315545107


  事務室にはそのとき誰もいなかった。教授は戸棚を開けるとガーゼと薬液を探し出し、ミートをつかんで、尻尾の治療をしてやった。そして、トレーを探し出して水を入れ、籠の中に入れてやった。それからバッグからパンの半分を探し出すと、それも籠の中に入れてやった。

  「よしよし、お食べ。ネズミちゃんたち。」教授はミートとローラに言った。「君たちだったんだね。よかったね。昨日は一日忙しくて、逃げ出す暇もなかったし、名誉の負傷まで負ってしまった。今日は今日で実験で大騒ぎ。おなかがすいたろ。」

  教授の言う通りミートとローラはおなかがすいて死にそうだった。今は食べ物の魅力が大きすぎて、彼らは何も考えずに大口を開けてパクついた。

  パンの半分はあっという間に食べ尽くされた。ミートとローラは教授を見上げた。教授は次にどうするつもりなのだろう。教授は彼らが食べ終わったのを見ると、きれいに後片付けをし、籠を下げて事務所を出て、ビルの後ろの林までやって来た。

  彼は籠を草地において、しゃがみこんでミートとローラに言った。「私は君たちを自由にしてあげることにしたんだ、ネズミちゃんたち。君たちの生き抜くエネルギーに私は感動した。もし私の予想が間違ってなかったら、尻尾のないほうは研究室から逃げてきたマウス君だろ?君は勇敢だったね。強かったよ。こんなに頑張ったんだ。ごほうびをあげないとね。だから君たちは特別だ。私も今日だけ特別なんだ。」言い終わると教授は籠の扉を開けてやった。

  ミートとローラはちょっとぼうっとなっていた。教授が彼らを逃がしてくれるとは考えもしなかったのだ。ほんとうに意外だった。2匹は教授を見上げた。教授はただ笑ってうなづくだけだった。ほんとうのことなのだろうか?よかった!ミートとローラは喜びで跳び上がった。自由になったのだ、ほんとうに自由になったのだ!数々のつらい努力は結局ムダではなかった。彼らは自由になったのだ!ミートとローラは籠を飛び出すと、興奮しながら遠くまで駆けて行った。彼らは急に立ち止まって、振り向いて感激の眼差しで教授を見た。

  教授は立ち上がって彼らに手を振り、大声で言った。「行きなさい。幸せにな!」

  ミートとローラは笑いながら見つめ合った。幸せ、まちがいなく幸せになる。そして彼らは向きを変えた。暖かい日差しを浴びながら、肩を並べて林の奥のほうへ入って行った。

(終)

written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
一瞬のうちに教室内は大混乱に陥った。ミートとローラはあたりかまわず逃げ隠れした。出口はすべてふさがれてしまった。子供たちの人数も多く、短い時間のうちに2匹は何度も叩かれた。彼らはあっちこっちでぶつかりながら逃げ回ったが、すでに逃げ道はなかった。とうとう2匹とも捕まってしまった。

  子供たちはミートとローラを捕まえると、異常に興奮した。彼らは教授を囲んであれこれてんでにがなり立てた。

  「教授、見てください。こいつ尻尾が半分ありません!」

  「どうして半分切れてるんでしょう?」

  「教授、2匹とも口が赤いです。血みたいですけど。」

  「教授、この尻尾が半分のマウスもいっしょに解剖しましょうか?」

  ……

  ローラは子供たちの声を聞くと、居たたまれなくなった。自分のことではなく、ミートのことだ。ミートにはありすぎるほど逃げ出すチャンスがあった。彼はこんな目に遭わずに済んだはずなのだ。それなのに今、自分の命さえも顧みないで、バカ!ほんとうに大バカ者よ!

  ローラは振り向いてミートを見た。そして悲しげに言った。「ミート、あなたってほんとうにバカね!どうして逃げなかったの?どうして自分から死のうとするのよ?」

  「ローラ、」ミートはやさしくローラを見つめ、落ちついて言った。「わかってるだろ、ボクは絶対に君を見捨てて、ひとりで逃げたりはしない。もし生き長らえるなら君といっしょだ。:もし死んでも君といっしょだ。ボクは君から離れることはない。永遠にだ。」

  「ミート……」ローラは何も言えなかった。

  教授は傷だらけのミートとローラを見て、ブツブツと低くつぶやいた。そして子供たちに言った。「みんな静かにするんだ。話を聞きなさい。君たちはこの2匹のマウスを私に渡しなさい。いいかい?彼らはほかの使い方をすることにします。」

  子供たちは顔を見合った。しぶしぶながら教授に手渡した。そして教授はミートとローラをもうひとつの籠のほうへ入れて、あの見知らぬ女性を呼びつけて、子供たちに実験の続きの指導をさせた。彼自身はミートとローラをつれて事務室に向かった。

written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
  教授は大教室に入っていった。教室には十数名の14,5歳の子供たちがいた。彼らは教授が提げてきた籠に白いネズミが入っているのを見て、異常に興奮した。

  教授は教壇に上がった。籠を机の上に置くとみんなに言った。「子供たち、今日から正式に実験を開始します。2人ずつ1組になって、組毎にひとりずつこっちに来て白いマウスを取ってください。」子供たちはすぐに相手を見つけてひとりずつ教壇のところに来て白いマウスを取った。教授が扉を閉める動作はすばやく、ローラは逃げるチャンスを失った。

  ドアの後ろに隠れていたミートはすべての人の一挙一動を詳細に見ていた。彼は3番目の子供がローラをつかんで、向きを変えて座席のほうへ歩いていくのを目にした。ローラは彼の手の中でもがいていた。

  その子は2歩ほど進んだとき、急に訝しげに立ち止まって独り言を言った。「あれ?このマウスの口のところどうして赤いんだ?なんだか血の跡みたいだぞ!」

  ミートはその子が立ち止まるのを見ると、機会を見定め突進して、その子のふくらはぎに思いっきり噛み付いた!子供は痛みの声を上げ、手を緩めた。ローラはこのすきに抜け出して、床に落ちた。

  「ローラ!」ミートは大声で叫ぶと、ローラのそばに駆け寄った。

  「ミート、早く、早く逃げましょう!」

  ローラはミートを引っ張ってドアに向かって走った。しかし子供の反応はすばやかった。彼らみな起こった事件に注意を向けた。ドアにいちばん近い子がミートとローラが飛び出す前にドアを閉めてしまっていた。

  「早く!2匹だ!早く捕まえて、逃がさないで!」

  「見て!あいつ尻尾が半分切れてるぞ!」

  「早く!窓を閉めて!」

  「ほうきだ!ほうきはどこ?」

  「モップだ!モップもいるぞ!」

  ……

written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
  「神様!これはいったいどうしたことなの?いったい何が起こったの?」見知らぬ女性はそう言いながら小さな鉄のクリップをはずしながら半分に切れた尻尾を拾いあげた。「これは白いマウスのものだわ!教授、見てください。」

  教授は尻尾を受け取って見てみた。そして頭を低くして籠と籠の中の白いマウスをジロジロ調べた。彼の目に映ったのは口元の毛に点々と血の跡をつけたローラだった。そして身を起こして考え込み、ブツブツ言った。「半分に切れた尻尾?マウスの数は減っていない!ううむ……おもしろい。」

  「何をおっしゃっているんですか?」見知らぬ女性には教授の声がはっきりと聞き取れなかった。

  「うむ、何でもない。私は先に教室へ行く。子供たちが来ているはずだ。君はここを片付けておいてくれたまえ。」言い終わると、教授は籠を提げて出て行った。

  ローラは静かに籠の中ではいつくばっていた。彼女はよけいなことは何も考えていなかった。ただミートと過ごした日々を思い出していただけだった。彼女は思った。「もし幸せな記憶を持ったまま死ねるなら、来世はきっとミートに会える。ミート……」

  ミート!!ローラは突然目を見開いた。ミートが部屋から出てきて、教授の跡をつけて来たのだ。バカ!どうして逃げないの?つけて来てどうしようっていうの?ローラは必死にミートに向かって首を振って、早く逃げさせようとした。しかしミートはまるで何も見えないかのように、跡をつけ続けた。ローラは降りしきる雨のように涙を流した。ミートはやはり彼女を見捨てなかったのだ。彼女にはとっくにわかっていた。

written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951

1 2 3 4 5

 

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

最新のコメント

日記内を検索