≪ミートとローラ【7−1】≫
2004年4月17日 連載七
とうとう廊下のほうから足音が聞こえてきた。
ミートとローラは黙ったまま向かい合っていた。彼らの口の周りの白い毛には点々と血の跡がついていた。鉄柵は彼らにかじられボロボロになってはいたが、破れてくれそうな気配は少しもなかった。
ローラは思いを込めてミートの目を見ながら言った。「ミート、あなた、私にかまわずに逃げてちょうだい。あなたに会えたのは前世で功徳を積んだおかげです。あなたといっしょにいた日々は私の一生でいちばん楽しいときでした。私は永遠にあなたのことを忘れません。ほんとうにしあわせでした。今生での私たちの縁はこれで終わりだけれど、来世では必ずあなたを見つけ出します。早く逃げてください……愛しているわ。」
ミートは何も言わなかった。彼はただ静かにローラを見ていた。足音がドアのところで停まった。ミートは向きを変えて隠れた。
ドアが開いた。見知らぬ女性と教授が入って来た。彼らは籠の前まで来た。見知らぬ女性は驚きの声を上げた。眼前の光景にどれだけ彼女が驚かされたことだろう。:小さな鉄のクリップは締まっていて、そこには半分に切れた尻尾が挟まっている。テーブルの上には小さな血だまりができている。そして、鉄柵はボロボロにかじられている。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
とうとう廊下のほうから足音が聞こえてきた。
ミートとローラは黙ったまま向かい合っていた。彼らの口の周りの白い毛には点々と血の跡がついていた。鉄柵は彼らにかじられボロボロになってはいたが、破れてくれそうな気配は少しもなかった。
ローラは思いを込めてミートの目を見ながら言った。「ミート、あなた、私にかまわずに逃げてちょうだい。あなたに会えたのは前世で功徳を積んだおかげです。あなたといっしょにいた日々は私の一生でいちばん楽しいときでした。私は永遠にあなたのことを忘れません。ほんとうにしあわせでした。今生での私たちの縁はこれで終わりだけれど、来世では必ずあなたを見つけ出します。早く逃げてください……愛しているわ。」
ミートは何も言わなかった。彼はただ静かにローラを見ていた。足音がドアのところで停まった。ミートは向きを変えて隠れた。
ドアが開いた。見知らぬ女性と教授が入って来た。彼らは籠の前まで来た。見知らぬ女性は驚きの声を上げた。眼前の光景にどれだけ彼女が驚かされたことだろう。:小さな鉄のクリップは締まっていて、そこには半分に切れた尻尾が挟まっている。テーブルの上には小さな血だまりができている。そして、鉄柵はボロボロにかじられている。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【6−2】≫
2004年4月15日 連載 「やってみようよ。」ミートの声はあまりはっきりしていなかった。彼自身も自信が持てなかったのだ。でも実際他に方法がない。ムダなことはわかているが、とりあえずやってみようじゃないか。ひょっとすると神様の気まぐれで奇跡起こるかもしれない。
そしてミートとローラはいっしょにいちばん細そうな格子を見つけ、最後の一仕事に取りかかった。彼らは順番にかじった。鉄柵に塗ってあったペンキが剥げた……格子が削られて光ってきた……周りに小さな傷がついてきた……少しずつ浅い溝ができてきた……部屋が明るくなり始めた……やわらかな日差しが差し込んできた……
ミートとローラは口の周りに噛み削った鉄柵から出たとげでケガをしていた。一晩中飲まず食わずの状態と疲れで彼らはヘトヘトだった。さらにミートには尻尾を切った痛みもあって、もうすでにこれ以上かじり続けることはできなかった。ほんとうにもうだめなのか……ほんとうにこのまま終わってしまうのか……
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
そしてミートとローラはいっしょにいちばん細そうな格子を見つけ、最後の一仕事に取りかかった。彼らは順番にかじった。鉄柵に塗ってあったペンキが剥げた……格子が削られて光ってきた……周りに小さな傷がついてきた……少しずつ浅い溝ができてきた……部屋が明るくなり始めた……やわらかな日差しが差し込んできた……
ミートとローラは口の周りに噛み削った鉄柵から出たとげでケガをしていた。一晩中飲まず食わずの状態と疲れで彼らはヘトヘトだった。さらにミートには尻尾を切った痛みもあって、もうすでにこれ以上かじり続けることはできなかった。ほんとうにもうだめなのか……ほんとうにこのまま終わってしまうのか……
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≪ミートとローラ【6−1】≫
2004年4月15日 連載六
どれぐらいの時間がたったのだろうか。ミートはだんだん目が覚めてきた。ゆっくりと目を開いたが、目の前は真っ暗で何も見えなかった。彼は自分の目がおかしくなったのだと思った。そして、あたりを見回して、やっと夜になったのだということがわかった。
「ミート!目が覚めたの?」ローラの声だった。声のするほうに目をやると、ローラの赤く泣き腫らした目が見えた。
「ローラ、あ……」ミートは立ちあがった。思わず尻尾を踏んづけて痛みが走った。振り向いて見ると、尻尾は半分しか残っていなかった。そして小さな血だまりができていた。
「ミート……」ローラは何か言おうとして口を開いたが、こんなときに何を言っても気持ちを伝えることはできないと思い、また口をつぐんだ。申し訳なさ、感動、そして心痛、そんな気持ちでミートを見つめた。
ミートは軽く尻尾を振ってみた。痛みはそんなにひどくはなかった。彼はローラに安心するように言った。そして小さな鉄の扉に近づいて行った。小さな鉄片がしっかりとスプリングロックを覆ってしまっていて、そこに彼の半分に切れた尻尾が挟まっていた。どうやら、小さな鉄の扉を開けるのは不可能になったようだ、とミートは思った。彼はそこらじゅうくまなく調べた。小さな鉄の籠にはもう他に逃げ道はなくなってしまった。
ローラはミートが籠の周りを行ったり来たりするのを見て、悲しそうな表情を浮かべた。そして心配して尋ねた。「ミート、もう逃げる方法はなくなったの?」
「ううむ……」ミートは低くつぶやいた。「まだ最後のどうしようもない方法があるさ―――鉄柵をかじってみるのさ。」
「え?!そんなことできるの?」ローラはびっくりして尋ねた。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
どれぐらいの時間がたったのだろうか。ミートはだんだん目が覚めてきた。ゆっくりと目を開いたが、目の前は真っ暗で何も見えなかった。彼は自分の目がおかしくなったのだと思った。そして、あたりを見回して、やっと夜になったのだということがわかった。
「ミート!目が覚めたの?」ローラの声だった。声のするほうに目をやると、ローラの赤く泣き腫らした目が見えた。
「ローラ、あ……」ミートは立ちあがった。思わず尻尾を踏んづけて痛みが走った。振り向いて見ると、尻尾は半分しか残っていなかった。そして小さな血だまりができていた。
「ミート……」ローラは何か言おうとして口を開いたが、こんなときに何を言っても気持ちを伝えることはできないと思い、また口をつぐんだ。申し訳なさ、感動、そして心痛、そんな気持ちでミートを見つめた。
ミートは軽く尻尾を振ってみた。痛みはそんなにひどくはなかった。彼はローラに安心するように言った。そして小さな鉄の扉に近づいて行った。小さな鉄片がしっかりとスプリングロックを覆ってしまっていて、そこに彼の半分に切れた尻尾が挟まっていた。どうやら、小さな鉄の扉を開けるのは不可能になったようだ、とミートは思った。彼はそこらじゅうくまなく調べた。小さな鉄の籠にはもう他に逃げ道はなくなってしまった。
ローラはミートが籠の周りを行ったり来たりするのを見て、悲しそうな表情を浮かべた。そして心配して尋ねた。「ミート、もう逃げる方法はなくなったの?」
「ううむ……」ミートは低くつぶやいた。「まだ最後のどうしようもない方法があるさ―――鉄柵をかじってみるのさ。」
「え?!そんなことできるの?」ローラはびっくりして尋ねた。
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≪ミートとローラ【5−3】≫
2004年4月14日 連載 「神様!!ミート!!ど……どうしたの?」
「な、なんでもないよ。ローラ……大声を出しちゃダメだ。……そ……外の……人に聞こえちゃまずい。」
「ミート!!」ローラはひどく心を痛めた。
ミートは痛みをこらえて振り向き、自分の尻尾を見た。その長い尻尾はすごい力の鉄のクリップで真ん中ぐらいのところをしっかりと挟まれていた。少しでも身動きすると耐えがたい痛みが走る。尻尾はもう切られてしまったような感じがした。どうしよう?ミートは眉に皺を寄せた。こんなことはしていられないのはわかっている。こんなことをしていると捕まってしまう。ローラが解剖される運命から逃れる望みもなくなってしまう。解剖!!この2文字を思い浮かべると、ミートの心は縮みあがった。残酷だ。なんとしてもローラを助けなければならない!
籠の中のローラはポロポロ涙を流しながらミートを見た。彼女は自分が恨めしかった。自分はどうしてこんなに愚かなのだろうと思った。逃げ出せなかっただけでなく、ミートにまでこんな目に遭わせるとは。もし自分がいなかったら、ミートは今ごろ自由になっていたのに。でも今は……
「ミート、だいじょうぶ?どうすればいいの?私……私……」
ミートは深く息を吸って、決心した。自分の尻尾を噛み切ることを!そうするしか逃れる手立てはない。すべてはそれから始まるのだ。
「ローラ、」ミートの声は痛みでかなり震えていたが、しっかりとしていた。「なんでもないよ、落ち着くんだ。考えがある。」
「ほんとう?どんな考え?」ローラは喜んで尋ねた。
ミートはやっとのことで穏やかな笑顔を見せながら言った。「尻尾を食いちぎればいいのさ。」
「ミート?!」ローラは目を大きく見開いた。
「どうってことないさ、ローラ。そうするしか見込みはないんだ。」
「ミート……」ローラは泣きじゃくって声にならなかった。
ミートは目を瞑り、心を落ち着かせた。振り向くと自分の尻尾を引き寄せ、ふうっと息を吸うと、一息に噛み切った!それほど大きくない音がすると身を切り裂くような痛みが走った。ミートは何もわからなくなった。
written by 一線雲児
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「な、なんでもないよ。ローラ……大声を出しちゃダメだ。……そ……外の……人に聞こえちゃまずい。」
「ミート!!」ローラはひどく心を痛めた。
ミートは痛みをこらえて振り向き、自分の尻尾を見た。その長い尻尾はすごい力の鉄のクリップで真ん中ぐらいのところをしっかりと挟まれていた。少しでも身動きすると耐えがたい痛みが走る。尻尾はもう切られてしまったような感じがした。どうしよう?ミートは眉に皺を寄せた。こんなことはしていられないのはわかっている。こんなことをしていると捕まってしまう。ローラが解剖される運命から逃れる望みもなくなってしまう。解剖!!この2文字を思い浮かべると、ミートの心は縮みあがった。残酷だ。なんとしてもローラを助けなければならない!
籠の中のローラはポロポロ涙を流しながらミートを見た。彼女は自分が恨めしかった。自分はどうしてこんなに愚かなのだろうと思った。逃げ出せなかっただけでなく、ミートにまでこんな目に遭わせるとは。もし自分がいなかったら、ミートは今ごろ自由になっていたのに。でも今は……
「ミート、だいじょうぶ?どうすればいいの?私……私……」
ミートは深く息を吸って、決心した。自分の尻尾を噛み切ることを!そうするしか逃れる手立てはない。すべてはそれから始まるのだ。
「ローラ、」ミートの声は痛みでかなり震えていたが、しっかりとしていた。「なんでもないよ、落ち着くんだ。考えがある。」
「ほんとう?どんな考え?」ローラは喜んで尋ねた。
ミートはやっとのことで穏やかな笑顔を見せながら言った。「尻尾を食いちぎればいいのさ。」
「ミート?!」ローラは目を大きく見開いた。
「どうってことないさ、ローラ。そうするしか見込みはないんだ。」
「ミート……」ローラは泣きじゃくって声にならなかった。
ミートは目を瞑り、心を落ち着かせた。振り向くと自分の尻尾を引き寄せ、ふうっと息を吸うと、一息に噛み切った!それほど大きくない音がすると身を切り裂くような痛みが走った。ミートは何もわからなくなった。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【5−2】≫
2004年4月13日 連載 「ローラ、ローラ、こっちに来てごらん。しっかりするんだ。ボクがついているよ。ボクがなんとかしてあげる。こっちにおいで。顔を見せておくれ。」ミートは優しくではあるが切迫したように呼びかけた。
ローラはとうとう立ちあがった。彼女はミートのそばに歩み寄った。ミートはローラの手を握り、哀れむようにいたわるように彼女を見た。彼らが手をつないだのはこれが2度目だった。たった2回だというのにこんな目に遭うとは。残酷過ぎる。運命はほんとうにめまぐるしく移り変わる。手の施しようがない。神様が彼らの愛を試してみているのではあるまいが。ミートはローラを見つめた。さまざまな思いが頭をよぎった。
「ミート、何か考えがあるの?この扉を開けられるの?」ローラは尋ねた。
「扉?あ、そうか。見てみる。待ってて。」ミートはそう言いながら、小さな扉のところにやって来た。
この鉄の扉には鎖は掛けてなかった。U字型のスプリングロックが掛けてある。小さな鉄の扉の側面には長い鉄板があててあった。いったい何だろう?ミートは見てみた。クリップのようだ。スプリングロックを保護するためのものか?ミートはいろいろ探ってみた。そして、特別なものではないようだと思った。このスプリングロックなら自分で開けられるかもしれない。とにかく、チャンスがある限りやってみなくてはならない。用心してそれに触らないようにすればいいじゃないか、と彼は思った。そして、彼は小さな鉄の扉に近づくと、用心深くしっかりとかかっているスプリングロックに手を伸ばしてみた。意外にも、彼が力を入れるやいなや、ガタンという音がしてそのクリップのような小さな鉄板が急に締め付けてきたのである!ミートは慌てて身を翻し、驚きで冷や汗を流した。彼は用心していたので逃げることができた。クリップのような物は彼の体にはかからなかった。しかし、たいへんなことになった。そのクリップにしっかりと彼の尻尾が挟まれてしまったのだ!!ミートのからだの芯に痛みが走った。彼は歯を食いしばって声をあげなかった。外の人間に気づかれるのを恐れたからである。ローラはすべてを見届け、恐怖のため口を覆った。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
ローラはとうとう立ちあがった。彼女はミートのそばに歩み寄った。ミートはローラの手を握り、哀れむようにいたわるように彼女を見た。彼らが手をつないだのはこれが2度目だった。たった2回だというのにこんな目に遭うとは。残酷過ぎる。運命はほんとうにめまぐるしく移り変わる。手の施しようがない。神様が彼らの愛を試してみているのではあるまいが。ミートはローラを見つめた。さまざまな思いが頭をよぎった。
「ミート、何か考えがあるの?この扉を開けられるの?」ローラは尋ねた。
「扉?あ、そうか。見てみる。待ってて。」ミートはそう言いながら、小さな扉のところにやって来た。
この鉄の扉には鎖は掛けてなかった。U字型のスプリングロックが掛けてある。小さな鉄の扉の側面には長い鉄板があててあった。いったい何だろう?ミートは見てみた。クリップのようだ。スプリングロックを保護するためのものか?ミートはいろいろ探ってみた。そして、特別なものではないようだと思った。このスプリングロックなら自分で開けられるかもしれない。とにかく、チャンスがある限りやってみなくてはならない。用心してそれに触らないようにすればいいじゃないか、と彼は思った。そして、彼は小さな鉄の扉に近づくと、用心深くしっかりとかかっているスプリングロックに手を伸ばしてみた。意外にも、彼が力を入れるやいなや、ガタンという音がしてそのクリップのような小さな鉄板が急に締め付けてきたのである!ミートは慌てて身を翻し、驚きで冷や汗を流した。彼は用心していたので逃げることができた。クリップのような物は彼の体にはかからなかった。しかし、たいへんなことになった。そのクリップにしっかりと彼の尻尾が挟まれてしまったのだ!!ミートのからだの芯に痛みが走った。彼は歯を食いしばって声をあげなかった。外の人間に気づかれるのを恐れたからである。ローラはすべてを見届け、恐怖のため口を覆った。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【5−1】≫
2004年4月12日 連載五
ドアにまた鍵がかけられたあと、ミートはテーブルに跳び上がった。
「ローラ!ローラ!」ミートは籠に駆け寄り鉄柵をつかんで大声で叫んだ。
ローラはまるで聞こえていないかのようだった。ピクリとも動かずに腹ばいになっていた。目は虚ろでぼうっとしていた。
ミートはあせった。彼はローラに向かって両手を伸ばし大声で叫んだ。「ローラ!おーい!だいじょうぶか?早くこっちに来て顔を見せてくれ。……ローラ、そんなことしてちゃダメだ。あきらめるな。立つんだ、ローラ。君は強い子だ。ボクらは絶望しちゃいけないんだ。ボクがいるだろ。ボクがいるじゃないか。ボクがなんとかしてあげるから。……ローラ、もし君が絶望してしまったら、ボクはどうすればいいんだ?……立つんだ!ローラ!……立ってくれ……ボクは……君を愛している……ローラ……」
ミートはのどが詰まって声が出なくなった。
「……ミート……」ローラにやっと目の輝きが戻った。彼女はミートが涙を流しているのをはっきりと見た。胸を刀でえぐられたような気持ちがしていた。
「ミート、私はどうしたらいいの?なぜこんなことになったの?私の何が悪かったの?……ミート……私、死にたくない……ミート……」ローラは涙で声が出なかった。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
ドアにまた鍵がかけられたあと、ミートはテーブルに跳び上がった。
「ローラ!ローラ!」ミートは籠に駆け寄り鉄柵をつかんで大声で叫んだ。
ローラはまるで聞こえていないかのようだった。ピクリとも動かずに腹ばいになっていた。目は虚ろでぼうっとしていた。
ミートはあせった。彼はローラに向かって両手を伸ばし大声で叫んだ。「ローラ!おーい!だいじょうぶか?早くこっちに来て顔を見せてくれ。……ローラ、そんなことしてちゃダメだ。あきらめるな。立つんだ、ローラ。君は強い子だ。ボクらは絶望しちゃいけないんだ。ボクがいるだろ。ボクがいるじゃないか。ボクがなんとかしてあげるから。……ローラ、もし君が絶望してしまったら、ボクはどうすればいいんだ?……立つんだ!ローラ!……立ってくれ……ボクは……君を愛している……ローラ……」
ミートはのどが詰まって声が出なくなった。
「……ミート……」ローラにやっと目の輝きが戻った。彼女はミートが涙を流しているのをはっきりと見た。胸を刀でえぐられたような気持ちがしていた。
「ミート、私はどうしたらいいの?なぜこんなことになったの?私の何が悪かったの?……ミート……私、死にたくない……ミート……」ローラは涙で声が出なかった。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【4−1】≫
2004年4月10日 連載四
ミートずっと見知らぬ女性を追って行った。
見知らぬ女性は研究所の建物を離れ、道路を横切り、草地を通り抜けて、新し目の大きなビルに入っていった。ミートはしっかりとその後をつけて行った。
見知らぬ女性は2階に上がると廊下の突き当たりの部屋のドアを開けた。黄色い鉄製の籠をテーブルの上にちょっと置いて出て行った。ミートは当然すばしこく中へ滑り込んだ。ドアが閉まると、ミートはテーブルに駆け上った。見るとローラはたよりなく彼のほうを眺めていた。
「ローラ!」ミートは走り寄ってローラの手をしっかりと握った。彼が彼女の手を握ったのはこれが最初だった。
「ミート!」ローラもしっかりとミートの手を握った。彼女は震えていた。
「ローラ、恐がらないで、ボクがいるだろ。」ミートはローラを慰めた。
「ミート、ここはどこなの?あの人たち何をしようって言うの?私恐くって……」
「ローラ、焦らないで、ボクいろいろ見てくるね。」
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
ミートずっと見知らぬ女性を追って行った。
見知らぬ女性は研究所の建物を離れ、道路を横切り、草地を通り抜けて、新し目の大きなビルに入っていった。ミートはしっかりとその後をつけて行った。
見知らぬ女性は2階に上がると廊下の突き当たりの部屋のドアを開けた。黄色い鉄製の籠をテーブルの上にちょっと置いて出て行った。ミートは当然すばしこく中へ滑り込んだ。ドアが閉まると、ミートはテーブルに駆け上った。見るとローラはたよりなく彼のほうを眺めていた。
「ローラ!」ミートは走り寄ってローラの手をしっかりと握った。彼が彼女の手を握ったのはこれが最初だった。
「ミート!」ローラもしっかりとミートの手を握った。彼女は震えていた。
「ローラ、恐がらないで、ボクがいるだろ。」ミートはローラを慰めた。
「ミート、ここはどこなの?あの人たち何をしようって言うの?私恐くって……」
「ローラ、焦らないで、ボクいろいろ見てくるね。」
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【3−3】≫
2004年4月9日 連載 チャンス?チャンスなんてどこにあるのよ?どうして私にはチャンスが訪れないの?神様、私にもチャンスをください!ローラは心の中でずっとつぶやき、祈り続けていた。
もちろんふたりの女性はミートを見つけられなかった。女性研究員は眉をしかめため息をついた。「もういいわ。逃げたものはしょうがない。ほんとうに不思議だわね。さあ、まだメスのほうが5匹足りないわ。」
そして、女性研究員はローラが住んでいるほうの籠を開けた。ミートとローラは思わず同時に声をあげそうになった。もしローラが脱出することができれば、完全に彼らの勝利だ。しかし、そのすぐあと、かれらの心は重く海底に沈むことになる。―――女性研究員は先ほどのことを教訓にしたようで、メスをつかむときの動作は機敏で、しっかり隙間を作らないようにしていた。ローラは心中ひそかに弱音を吐いていた。今回はもうだめだわ!逃げられない。女性研究員は1匹、2匹、3匹、4匹とつかみ出した。そしてついに女性研究員の手がローラに伸びてきた!ローラは一瞬固まった。この短い時間の間に、ローラはつかみ出され黄色い小さな鉄の籠に入れられた。
「何をしようっていうんだ?」ミートとローラは不吉な予感がした。何か事件が起ころうとしていた。
見知らぬ女性は籠に鍵をかけ、さよならと言った後、ドアのほうへ向かった。
まずい!ローラが連れて行かれる!ミートはドキッとした。彼はさっと向きを変えると、見知らぬ女性が歩いて行くすぐ後をつけて行った。彼女はローラをどこに連れて行くんだ?ミートには想像もつかなかった。ローラはミートが後をつけて来ていることに気づいていた。ミートは彼女のことを放ってはおかないと思っていた。しかし、どこに連れて行かれるのか?何が起こるのか?彼女の運命はいかに?見当もつかず、恐ろしく、未知の運命が彼女をおびえさせ、震えさせた。
……ミート……見捨てないでね……ミート……
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
もちろんふたりの女性はミートを見つけられなかった。女性研究員は眉をしかめため息をついた。「もういいわ。逃げたものはしょうがない。ほんとうに不思議だわね。さあ、まだメスのほうが5匹足りないわ。」
そして、女性研究員はローラが住んでいるほうの籠を開けた。ミートとローラは思わず同時に声をあげそうになった。もしローラが脱出することができれば、完全に彼らの勝利だ。しかし、そのすぐあと、かれらの心は重く海底に沈むことになる。―――女性研究員は先ほどのことを教訓にしたようで、メスをつかむときの動作は機敏で、しっかり隙間を作らないようにしていた。ローラは心中ひそかに弱音を吐いていた。今回はもうだめだわ!逃げられない。女性研究員は1匹、2匹、3匹、4匹とつかみ出した。そしてついに女性研究員の手がローラに伸びてきた!ローラは一瞬固まった。この短い時間の間に、ローラはつかみ出され黄色い小さな鉄の籠に入れられた。
「何をしようっていうんだ?」ミートとローラは不吉な予感がした。何か事件が起ころうとしていた。
見知らぬ女性は籠に鍵をかけ、さよならと言った後、ドアのほうへ向かった。
まずい!ローラが連れて行かれる!ミートはドキッとした。彼はさっと向きを変えると、見知らぬ女性が歩いて行くすぐ後をつけて行った。彼女はローラをどこに連れて行くんだ?ミートには想像もつかなかった。ローラはミートが後をつけて来ていることに気づいていた。ミートは彼女のことを放ってはおかないと思っていた。しかし、どこに連れて行かれるのか?何が起こるのか?彼女の運命はいかに?見当もつかず、恐ろしく、未知の運命が彼女をおびえさせ、震えさせた。
……ミート……見捨てないでね……ミート……
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
≪ミートとローラ【3−1】≫
2004年4月7日 連載三
その後、ミートとローラは静かに辛抱強く待った。彼らは注意深く回りのすべての動静を見ていた。チャンスが知らぬ間に逃げてしまわぬように。信じることが彼らにどんなことにも立ち向かえる勇気を与えた。
ある日の午後、ミートとローラと他の仲間たちが休んでいるとき、研究室のドアが突然開いた。いつもならこんなときに、人が入ってくるはずはないのだが。ミートとローラは物音を聞いた。そしてすぐに檻に手をかけドアのところを注視した。ドアからは2人の女性が入ってきた。ひとりは彼らに餌をくれる女性研究員;もうひとりは見たことがない。手には黄色の鉄の籠を提げている。
2人の女性はまっすぐミートとローラの籠の前にやって来た。見知らぬ女性は黄色の籠の扉を開けた。女性研究員はミートが住んでいる籠の扉を開けて、マウスをつかんでその黄色の籠に入れようと手を伸ばした。そして2匹目……チャンスだ!ミートは目を見開いた。彼は女性研究員がマウスをつかみ出した後、扉を閉める動作がそれほど早くないのに気づいた。両手を入れ替える時に短いスキがある。これはまたとないチャンスだ!!彼は準備を始めた。女性研究員が5匹目をつかみ手を引っ込めようとしたとき、ミートはすばやく女性研究員の手の動きに合わせ飛び出した。成功したのだ!!ふたりの女性はこの突発的な出来事に驚いた。女性研究員はすぐさま籠の鍵をしっかりとかけ、ミートを探しまわった。ミートはこのときにはすでにドアの外へ逃げ出していた。彼はドアの陰から籠の中のローラを見上げた。ローラは感激し、ミートの成功を喜ぶ表情をしながら、焦って籠の中を走りまわっていた。ミートは逃亡に成功し、彼女も急いで逃げ出したいと思っていた。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
その後、ミートとローラは静かに辛抱強く待った。彼らは注意深く回りのすべての動静を見ていた。チャンスが知らぬ間に逃げてしまわぬように。信じることが彼らにどんなことにも立ち向かえる勇気を与えた。
ある日の午後、ミートとローラと他の仲間たちが休んでいるとき、研究室のドアが突然開いた。いつもならこんなときに、人が入ってくるはずはないのだが。ミートとローラは物音を聞いた。そしてすぐに檻に手をかけドアのところを注視した。ドアからは2人の女性が入ってきた。ひとりは彼らに餌をくれる女性研究員;もうひとりは見たことがない。手には黄色の鉄の籠を提げている。
2人の女性はまっすぐミートとローラの籠の前にやって来た。見知らぬ女性は黄色の籠の扉を開けた。女性研究員はミートが住んでいる籠の扉を開けて、マウスをつかんでその黄色の籠に入れようと手を伸ばした。そして2匹目……チャンスだ!ミートは目を見開いた。彼は女性研究員がマウスをつかみ出した後、扉を閉める動作がそれほど早くないのに気づいた。両手を入れ替える時に短いスキがある。これはまたとないチャンスだ!!彼は準備を始めた。女性研究員が5匹目をつかみ手を引っ込めようとしたとき、ミートはすばやく女性研究員の手の動きに合わせ飛び出した。成功したのだ!!ふたりの女性はこの突発的な出来事に驚いた。女性研究員はすぐさま籠の鍵をしっかりとかけ、ミートを探しまわった。ミートはこのときにはすでにドアの外へ逃げ出していた。彼はドアの陰から籠の中のローラを見上げた。ローラは感激し、ミートの成功を喜ぶ表情をしながら、焦って籠の中を走りまわっていた。ミートは逃亡に成功し、彼女も急いで逃げ出したいと思っていた。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
≪ミートとローラ【2】≫
2004年4月6日 連載二
その後何日か、彼らはとても楽しく過ごした。ミートは次から次へと笑い話や物語を話す。そしてローラは優秀な聞き手だった。ミートは声もよく情感たっぷりに話す。ローラはミートの話に合わせ、ときには眉をひそめ、ときには驚きの声をあげた。ミートはとても楽しかった。ひとつだけ欠けているものがあるとすれば、それは肩を並べて話すことができないということだった。氷のように冷たい鉄柵は無情にも彼らを分け隔て、彼らは遠くから見つめ合うしかなかった。研究員が彼らに餌を入れていくたびに、彼らをいっしょにしてくれるように祈ったが、いつもそれは失望に変わった。しかし、それだからといって、彼らの思いが募るのを妨げたりはしなかった。遠く離れて眺めるだけの日が愉快に過ぎていった。
ある日、ローラは寂しそうにミートに尋ねた。「ミート、私たちここにどのくらいいるのかしら?」
「ボクもわからないな。どうしてそんなことを?」
「私たち、ずっとこんなふうに離れ離れのままなのかしら。ずっとこんなふうに檻に入れられたままなのかしら。」
「……」
「ミート、どうして答えてくれないの?」
「ボク……このまんまなんていやだ。でもどうすればいいんだろう?」
「……ミート、私を愛してくれている?」
「もちろんさ、ローラ。」
「それなら……逃げ出す方法を考えましょうよ。」
「逃げるって?どうやって逃げるんだ?この檻には鍵がかかっているし、それを開けることもできないよ。」
「方法を考えるのよ。何かいい方法があるはずだわ、ミート。私たちがそう願ってさえいれば。」
「ローラ……」ミートは感激しながらローラを見た。愛、これが愛の力なのか。愛のために、彼はやってみようと思った。
それから、彼らはチャンスをうかがい始めた。研究員が餌を入れるたびに、ミートとローラは特に注意を払った。しかし研究員は未だかつて扉を開けたこともなく、餌は籠の隙間から入れられるのだった。鉄柵はかじっても食い破れるはずもなかった。
ミートはローラに言った。「鉄の檻は固くてじょうぶだ。扉にも鍵がかけてある。待つしかないな。チャンスが来るまで。焦らないで。ボクを信じてくれ。きっといっしょに逃げ出すんだ。」
「うん、信じているわ、ミート。」ローラはしっかり気持ちをこめて答えた。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
その後何日か、彼らはとても楽しく過ごした。ミートは次から次へと笑い話や物語を話す。そしてローラは優秀な聞き手だった。ミートは声もよく情感たっぷりに話す。ローラはミートの話に合わせ、ときには眉をひそめ、ときには驚きの声をあげた。ミートはとても楽しかった。ひとつだけ欠けているものがあるとすれば、それは肩を並べて話すことができないということだった。氷のように冷たい鉄柵は無情にも彼らを分け隔て、彼らは遠くから見つめ合うしかなかった。研究員が彼らに餌を入れていくたびに、彼らをいっしょにしてくれるように祈ったが、いつもそれは失望に変わった。しかし、それだからといって、彼らの思いが募るのを妨げたりはしなかった。遠く離れて眺めるだけの日が愉快に過ぎていった。
ある日、ローラは寂しそうにミートに尋ねた。「ミート、私たちここにどのくらいいるのかしら?」
「ボクもわからないな。どうしてそんなことを?」
「私たち、ずっとこんなふうに離れ離れのままなのかしら。ずっとこんなふうに檻に入れられたままなのかしら。」
「……」
「ミート、どうして答えてくれないの?」
「ボク……このまんまなんていやだ。でもどうすればいいんだろう?」
「……ミート、私を愛してくれている?」
「もちろんさ、ローラ。」
「それなら……逃げ出す方法を考えましょうよ。」
「逃げるって?どうやって逃げるんだ?この檻には鍵がかかっているし、それを開けることもできないよ。」
「方法を考えるのよ。何かいい方法があるはずだわ、ミート。私たちがそう願ってさえいれば。」
「ローラ……」ミートは感激しながらローラを見た。愛、これが愛の力なのか。愛のために、彼はやってみようと思った。
それから、彼らはチャンスをうかがい始めた。研究員が餌を入れるたびに、ミートとローラは特に注意を払った。しかし研究員は未だかつて扉を開けたこともなく、餌は籠の隙間から入れられるのだった。鉄柵はかじっても食い破れるはずもなかった。
ミートはローラに言った。「鉄の檻は固くてじょうぶだ。扉にも鍵がかけてある。待つしかないな。チャンスが来るまで。焦らないで。ボクを信じてくれ。きっといっしょに逃げ出すんだ。」
「うん、信じているわ、ミート。」ローラはしっかり気持ちをこめて答えた。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【1】≫
2004年4月5日 連載一
科学院の実験室、新しく送られてきたマウスの籠が2つある。白い籠がオスのマウス、青い籠がメスのマウス。研究員は2つの籠をいっしょに置き、餌を入れた後部屋を出る。そして、マウスたちは彼らの新しい家を観察し始める。
白い籠のマウスは名前をミートといい、とても活発だ。しきりに走り回ったり、匂いをかぎまわったり、そこらじゅうひっかきまわったり。そして頭を挙げ外を眺めている。彼は籠に貼りついたり円を描いたりしながらウロウロ見まわしている。透明なガラス皿、高い鉄の台、長方形の試験管台……すべてが目新しい。彼がそうやって見まわしているうちに、ふと向かい側の青い籠の1匹のマウスが目にとまった。そのマウスのほうもちょうど好奇の目で彼を見ていた。ミートはそのマウスを見ながら思った。彼女はとってもきれいだ!その瞳は黒く輝いている。まるで語りかけてくるかのようだ。真っ白でやわらかなからだ、ちっちゃなピンク色の爪、細長く機敏そうな尻尾……こんなきれいなマウスを見たことがない。ミートは喜んで親しげに彼女に向かって手を振った。向こうの方もそれを見て恥ずかしげに笑って、ミートに向かってそっと手を振った。そのまなざしからは好感を持っていることが見て取れた。ミートは自分が彼女に恋をしてしまったのに気づいた。一目惚れというヤツだ、とミートは思った。
それから彼は彼女にいちばん近いところに行って、尋ねた。「お名前を教えていただけますか?」
「ローラよ。」彼女は言った。
「ローラ、うん、よろしくね。友達になってもらえますか?」
「もちろん。」ローラはミートの言葉に喜んでいた。
ローラのはっきりした答にミートは狂わんばかりに喜んだ。そして思った。これが美しい恋愛の始まりになるに違いない。初めてのことだった。
written by 一線雲児
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科学院の実験室、新しく送られてきたマウスの籠が2つある。白い籠がオスのマウス、青い籠がメスのマウス。研究員は2つの籠をいっしょに置き、餌を入れた後部屋を出る。そして、マウスたちは彼らの新しい家を観察し始める。
白い籠のマウスは名前をミートといい、とても活発だ。しきりに走り回ったり、匂いをかぎまわったり、そこらじゅうひっかきまわったり。そして頭を挙げ外を眺めている。彼は籠に貼りついたり円を描いたりしながらウロウロ見まわしている。透明なガラス皿、高い鉄の台、長方形の試験管台……すべてが目新しい。彼がそうやって見まわしているうちに、ふと向かい側の青い籠の1匹のマウスが目にとまった。そのマウスのほうもちょうど好奇の目で彼を見ていた。ミートはそのマウスを見ながら思った。彼女はとってもきれいだ!その瞳は黒く輝いている。まるで語りかけてくるかのようだ。真っ白でやわらかなからだ、ちっちゃなピンク色の爪、細長く機敏そうな尻尾……こんなきれいなマウスを見たことがない。ミートは喜んで親しげに彼女に向かって手を振った。向こうの方もそれを見て恥ずかしげに笑って、ミートに向かってそっと手を振った。そのまなざしからは好感を持っていることが見て取れた。ミートは自分が彼女に恋をしてしまったのに気づいた。一目惚れというヤツだ、とミートは思った。
それから彼は彼女にいちばん近いところに行って、尋ねた。「お名前を教えていただけますか?」
「ローラよ。」彼女は言った。
「ローラ、うん、よろしくね。友達になってもらえますか?」
「もちろん。」ローラはミートの言葉に喜んでいた。
ローラのはっきりした答にミートは狂わんばかりに喜んだ。そして思った。これが美しい恋愛の始まりになるに違いない。初めてのことだった。
written by 一線雲児
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それから、彼は彼女に近づいていき、湖の水面のような安らかで澄んだ目をのぞきこんだ。そのとき、彼は魂を抜き取られるような美しい声を聞いた。「あなたは私とずっといっしょにいたいですか?」
この言葉は彼女が自由な意志を持っていることを意味していた。これはまさに彼の期待通りの結果だった。夜露が彼の額に落ちた。染み透るような冷たさがだんだんと全身に広がっていった。そしてついには彼を完全に包み込んだ。そして、考える暇もなく彼は彼女の名前を叫んでいた。:「Eve、もちろんいっしょにいたいさ!」
「いっしょにいたいさ!」
その言葉が終わらぬうちに、彼は見た。:周りの水のカーテンがそれと同時に蒸気と化し、瞬く間に影も形もなく空気の中に消えてしまったのだ。水のカーテンの背後には果てしない広野と大空が広がっていた。―――頭では想像できないほど広い、どんな言葉をもってしても表現できないほど広い(残念ながら、“広い”としか言いようがありません)世界だった。
しかし、彼が水のカーテンを通り抜けるとき、2種類の音がはっきりと彼の耳に響いた。
左の耳に届いたのは、以前の世界での最後の彼のうめき声だった。
右の耳に届いたのは、彼女が彼を呼ぶ声だった。「Eden、こんにちは。」
水、それは彼が通ってきた道に過ぎなかった。しかし今、「彼は死んだ。」とか、「彼は生まれ変わったのか?」とか言えるのだろうか?そして、彼がひとつの世界を去り、もうひとつの世界を創り出した、ということをだれが想像できるのだろうか?
written by 發炎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004030209405236
この言葉は彼女が自由な意志を持っていることを意味していた。これはまさに彼の期待通りの結果だった。夜露が彼の額に落ちた。染み透るような冷たさがだんだんと全身に広がっていった。そしてついには彼を完全に包み込んだ。そして、考える暇もなく彼は彼女の名前を叫んでいた。:「Eve、もちろんいっしょにいたいさ!」
「いっしょにいたいさ!」
その言葉が終わらぬうちに、彼は見た。:周りの水のカーテンがそれと同時に蒸気と化し、瞬く間に影も形もなく空気の中に消えてしまったのだ。水のカーテンの背後には果てしない広野と大空が広がっていた。―――頭では想像できないほど広い、どんな言葉をもってしても表現できないほど広い(残念ながら、“広い”としか言いようがありません)世界だった。
しかし、彼が水のカーテンを通り抜けるとき、2種類の音がはっきりと彼の耳に響いた。
左の耳に届いたのは、以前の世界での最後の彼のうめき声だった。
右の耳に届いたのは、彼女が彼を呼ぶ声だった。「Eden、こんにちは。」
水、それは彼が通ってきた道に過ぎなかった。しかし今、「彼は死んだ。」とか、「彼は生まれ変わったのか?」とか言えるのだろうか?そして、彼がひとつの世界を去り、もうひとつの世界を創り出した、ということをだれが想像できるのだろうか?
written by 發炎
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さらに多くの時間を夢見ることに使うために、彼は家を売って金に換え、蓄えを注ぎ込んで充分な食物等の生活必需品を買い、人が足を踏み入れることもないようなこの森にやって来た。人里離れて孤独に暮らし、計画の進度をスピードアップした。
彼は計画的に毎日の睡眠時間を長くしていった。―――16時間、18時間、20時間、22時間……これは難しいことではなく、しようと思っただけですぐ実現した。
彼は太陽、月、星、川や山、草花樹木、鳥や獣も完成させ、ついにはすべての葉の色まで変えてみせた。今ではこの世界は(すべての仔細を含めて)すべて完成している。頭の上をゆっくりと流れる300種類の色を使った雲を見ながら、彼は思った。:これらすべては、オレが創り出したのだ!
そうだ。これはコピーなどではなく、創造、そう、創造されたのだ!彼は初めから現実のものの仔細を考えたりせず、ただ自分の好みに従っただけなのだから。これは完全なる創造だった。
20数年経って初めて、彼は暇な時間ができた。そしてすぐ、この問題に思い至った。:この世界で、いちばん何がほしいのか?
当然、女だ。彼はもう一度そう言った。
written by 發炎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004030209405236
彼は計画的に毎日の睡眠時間を長くしていった。―――16時間、18時間、20時間、22時間……これは難しいことではなく、しようと思っただけですぐ実現した。
彼は太陽、月、星、川や山、草花樹木、鳥や獣も完成させ、ついにはすべての葉の色まで変えてみせた。今ではこの世界は(すべての仔細を含めて)すべて完成している。頭の上をゆっくりと流れる300種類の色を使った雲を見ながら、彼は思った。:これらすべては、オレが創り出したのだ!
そうだ。これはコピーなどではなく、創造、そう、創造されたのだ!彼は初めから現実のものの仔細を考えたりせず、ただ自分の好みに従っただけなのだから。これは完全なる創造だった。
20数年経って初めて、彼は暇な時間ができた。そしてすぐ、この問題に思い至った。:この世界で、いちばん何がほしいのか?
当然、女だ。彼はもう一度そう言った。
written by 發炎
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しかし、19歳の年のある朝、たまたま複雑で散らかった夢の世界を思い出しているときのことだった。彼はとても驚いた。;今まで何千何万と夢を見てきたが、どうしてどの夢にも水が出てきたのだろう?いつも水が夢に出てくる。どの夢の中にも。
そしてすぐ、ある考えがひらめいた。;そうだ。夢には何か意味があるんじゃないのか!お告げみたいなものなんだ。夢の内容は保存できるということだ。もしこれがほんとうなら、夢の世界は創り出せるということだ。少しずつ付け加えができるとしたら、夢の中に光り輝く宮殿を造ることができる。
この後、彼は世界でいちばんまじめに夢を見る人になった。
しかし、しばらくすると、はっと気がついた。一挙にそんな夢の宮殿を建てようたって無理だ。夢の中には何もかもそろっているから、その複雑さは現実世界に勝るとも劣らない。
彼にはわかった。;いちばん小さなものから、いちばん単純なものから、用心深く一歩一歩彼のあこがれの世界を構築していかなければならないのだ、と。
しかし、世界でいちばん単純なものとは何だろう?どんな小さなものでも、アリ一匹にしたって、砂一粒にしたって、みな複雑な面を持っている。表面上は単純でも、内部はわからない。それに、ものは例外なく近づいて細かいところまで見れば見るほど複雑になる。内部の複雑さがものを系統立てていると言えるかもしれない。
written by 發炎
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そしてすぐ、ある考えがひらめいた。;そうだ。夢には何か意味があるんじゃないのか!お告げみたいなものなんだ。夢の内容は保存できるということだ。もしこれがほんとうなら、夢の世界は創り出せるということだ。少しずつ付け加えができるとしたら、夢の中に光り輝く宮殿を造ることができる。
この後、彼は世界でいちばんまじめに夢を見る人になった。
しかし、しばらくすると、はっと気がついた。一挙にそんな夢の宮殿を建てようたって無理だ。夢の中には何もかもそろっているから、その複雑さは現実世界に勝るとも劣らない。
彼にはわかった。;いちばん小さなものから、いちばん単純なものから、用心深く一歩一歩彼のあこがれの世界を構築していかなければならないのだ、と。
しかし、世界でいちばん単純なものとは何だろう?どんな小さなものでも、アリ一匹にしたって、砂一粒にしたって、みな複雑な面を持っている。表面上は単純でも、内部はわからない。それに、ものは例外なく近づいて細かいところまで見れば見るほど複雑になる。内部の複雑さがものを系統立てていると言えるかもしれない。
written by 發炎
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そう、今は彼にとって収穫の時期だ。19歳のころからこういう努力を始めたのは、間違いではなかった。だから彼はある種の神秘的な力に感謝している。この力は19歳になる前からすでに彼がするべきことをすべて予定していた。
物心ついてから、眠りさえすれば途切れることなく夢を見てきた。その後、彼は知ることになる。:夜には、自分のまぶたは透明になり、珍しい形の色とりどりのものが、つかの間移ろって行く。そのイメージが、先を争ってこの狭いスクリーンに映し出される。そのとき、他の人にこの尋常でない状況をどのように説明すればよいのか彼にはわからなかった。
彼のまぶたは透明になる。まぶたを透過して、昼間の60倍ものものが見える。毎晩見るのは天然色の、濡れない羽毛を持った、ゆらゆら空を飛ぶゾウ;美しい花園が見える。清らかな渓流の川縁には2種類の不思議な花が咲いている。―――ひとつは萎れない花、もうひとつは花が散って、枝から離れたとたんにヒラヒラと舞う美しい蝶になる花。;青々とした草原が見える。そこでは数え切れないほどの駿馬が川で水を飲んでいる。;ピラミッドの中のファラオが見える。彼は水の流れのような明るく伸びやかな音楽の中、権威の杖をしっかりと握っている。;海流に漂うタツノオトシゴが見える。その子供たちは黒い目を輝かせ、サンゴ礁の中で遊んでいる。;木の葉が集まってまん丸になっているのが見える。びっしりと固まって、海面上空をフワフワと浮かんで、海の上の森を形作っている……毎晩彼は目の前の美しく不思議な情景に引き込まれる。そして知らぬ間にさらに深い夢の中に入りこんでいる。
written by 發炎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004030209405236
物心ついてから、眠りさえすれば途切れることなく夢を見てきた。その後、彼は知ることになる。:夜には、自分のまぶたは透明になり、珍しい形の色とりどりのものが、つかの間移ろって行く。そのイメージが、先を争ってこの狭いスクリーンに映し出される。そのとき、他の人にこの尋常でない状況をどのように説明すればよいのか彼にはわからなかった。
彼のまぶたは透明になる。まぶたを透過して、昼間の60倍ものものが見える。毎晩見るのは天然色の、濡れない羽毛を持った、ゆらゆら空を飛ぶゾウ;美しい花園が見える。清らかな渓流の川縁には2種類の不思議な花が咲いている。―――ひとつは萎れない花、もうひとつは花が散って、枝から離れたとたんにヒラヒラと舞う美しい蝶になる花。;青々とした草原が見える。そこでは数え切れないほどの駿馬が川で水を飲んでいる。;ピラミッドの中のファラオが見える。彼は水の流れのような明るく伸びやかな音楽の中、権威の杖をしっかりと握っている。;海流に漂うタツノオトシゴが見える。その子供たちは黒い目を輝かせ、サンゴ礁の中で遊んでいる。;木の葉が集まってまん丸になっているのが見える。びっしりと固まって、海面上空をフワフワと浮かんで、海の上の森を形作っている……毎晩彼は目の前の美しく不思議な情景に引き込まれる。そして知らぬ間にさらに深い夢の中に入りこんでいる。
written by 發炎
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“彼自身も幻影だ。別の人の夢の中の幻影なのだ”
“ある人が私の夢を見ている夢を見た”
―――ボルヘス、最も偉大なる夢想家(1899〜1986;アルゼンチンの詩人、小説家、翻訳家)
もし完全に自分のものである世界があるとしたら、その世界であなたはいちばん何が必要ですか?いちばん何がほしいですか?
これは彼が夢から覚めたあと考えた問題だ。これはそれほど現実的で、すぐ目の前にある問題である。そのため伸ばした指が見えない暗闇の中でも、彼は自分の前でその問題が熱い息を吐いているのがわかる。
女、そう、もちろん女だ。
何年も前に、彼は初めてこれ以上ないほど鮮明に意識した。:彼にはその資格がある。勇気もある。こう答える必要がある。女がいてこそ、彼の世界は真の意味で完全無欠になるのだ。
何年も前に、状況は初めてこの段階に達した。彼がしばらくの間仕事の手を休めて、「オレにいちばん必要なものは何だ?」と問うことができるほどまでになった。
written by 發炎
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“ある人が私の夢を見ている夢を見た”
―――ボルヘス、最も偉大なる夢想家(1899〜1986;アルゼンチンの詩人、小説家、翻訳家)
もし完全に自分のものである世界があるとしたら、その世界であなたはいちばん何が必要ですか?いちばん何がほしいですか?
これは彼が夢から覚めたあと考えた問題だ。これはそれほど現実的で、すぐ目の前にある問題である。そのため伸ばした指が見えない暗闇の中でも、彼は自分の前でその問題が熱い息を吐いているのがわかる。
女、そう、もちろん女だ。
何年も前に、彼は初めてこれ以上ないほど鮮明に意識した。:彼にはその資格がある。勇気もある。こう答える必要がある。女がいてこそ、彼の世界は真の意味で完全無欠になるのだ。
何年も前に、状況は初めてこの段階に達した。彼がしばらくの間仕事の手を休めて、「オレにいちばん必要なものは何だ?」と問うことができるほどまでになった。
written by 發炎
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≪もしこれが愛なら【最終回】≫
2004年3月23日 連載 すべてを知って、母后がどうしていつも暗い表情だったのかがわかった。どうしてあんなに私を可愛がってくれたのかがわかった。そしてとうとう私の命の秘密を知ることができた。
父王は、母后が償って取り戻してくれた私の将来を、ここを出て過ごすか、それともまた新たに300年間縁があるまで待つかを選択させてくれた。
父王は笑みを浮かべてうなずき、私に言った。お前は今でも彼の最愛の王女なのだと。
私は海面に出て、静かに夜が来るのを待った。ひたむきに愛してくれる男を待った。
私は彼に伝えなければならない。世越、私は連裳です。夜毎あなたが私のために簫を吹いてくれているのに、どうしてあなたのことを忘れることができるでしょうか、と。
written by 羽貝
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004022121180929
父王は、母后が償って取り戻してくれた私の将来を、ここを出て過ごすか、それともまた新たに300年間縁があるまで待つかを選択させてくれた。
父王は笑みを浮かべてうなずき、私に言った。お前は今でも彼の最愛の王女なのだと。
私は海面に出て、静かに夜が来るのを待った。ひたむきに愛してくれる男を待った。
私は彼に伝えなければならない。世越、私は連裳です。夜毎あなたが私のために簫を吹いてくれているのに、どうしてあなたのことを忘れることができるでしょうか、と。
written by 羽貝
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≪もしこれが愛なら【5】≫
2004年3月22日 連載 まもなく母后は病気で亡くなった。私は父王に母のベッドのところに呼ばれた。母后のやつれて安らかな顔を見ると、私は声を失い泣き出した。驚きの出来事が一瞬にして起こったのだ。私は自分が泣くことができたのがわかった。そして、私の指の間から流れていくもの、それは丸い真珠ではなく、キラキラ光る涙だった。私は茫然として父王の顔を見た。父王の哀れみのまなざしの中には、いかんともしがたいといった気持ちがこめられていた。父王は私に話した。「イ肖児、実はお前は完全な人魚というわけではないのだ。お前のからだには半分人間の血が流れている。これは母后が人間だったという理由からだけではない。彼女はそのためにしかたなくこの世を去ったのだ。償いをしてお前の将来を取り戻すために。
私はますますわけがわからなくなった。そこで父王はある物語を私に聞かせてくれた。:昔々、陸地にふたりの幼ななじみがいた。ひとりの名前は連裳、お前の母后だ。もうひとりの名前は世越、お前の母后の恋人だ。あるとき世越は海に漁に出たが、暴風に遭って海底に葬り去られた。お前の母后は昼も夜も祈ったが、悲しみが昂じてとうとう病になってしまった。そして私はそのとき、その優しく美しい娘に恋をしていた。だから私は彼女を訪ねていき、要求をした。世越に生き返らせてやるから、彼女の将来を私に預けてくれ、と。放心状態のお前の母后はうなずいた。そしてこのときから、彼女と世越は海と陸とに離れ離れに暮らすことになった。お前の母后は私を恨んだりはしなかった。ただ黙々と私に仕え海宮の一切を取り仕切っていった。しかし私は知っていた。お前の母后が毎晩眠れぬ夜を過ごしているのを。それは世越が夜毎簫を吹いていたからだった。
written by 羽貝
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004022121180929
私はますますわけがわからなくなった。そこで父王はある物語を私に聞かせてくれた。:昔々、陸地にふたりの幼ななじみがいた。ひとりの名前は連裳、お前の母后だ。もうひとりの名前は世越、お前の母后の恋人だ。あるとき世越は海に漁に出たが、暴風に遭って海底に葬り去られた。お前の母后は昼も夜も祈ったが、悲しみが昂じてとうとう病になってしまった。そして私はそのとき、その優しく美しい娘に恋をしていた。だから私は彼女を訪ねていき、要求をした。世越に生き返らせてやるから、彼女の将来を私に預けてくれ、と。放心状態のお前の母后はうなずいた。そしてこのときから、彼女と世越は海と陸とに離れ離れに暮らすことになった。お前の母后は私を恨んだりはしなかった。ただ黙々と私に仕え海宮の一切を取り仕切っていった。しかし私は知っていた。お前の母后が毎晩眠れぬ夜を過ごしているのを。それは世越が夜毎簫を吹いていたからだった。
written by 羽貝
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≪もしこれが愛なら【4】≫
2004年3月21日 連載 「イ肖児、イ肖児、」私はその声で目が覚めた。見ると母后が優しく見つめていた。この上ない優しさを感じた。「イ肖児、目が覚めたのね!!」私は慌てて母后に尋ねた。「あの男は誰?」
母后は笑って答えた。「イ肖児、お前が今見たのは夢。お前の成人の夜から今までのところはただの夢。でも、夢の中の男はお前の未来の運命の人なのよ。さあ、慌てないで。お母さんにその人の様子を話してごらん。」
私は困ったように笑った。夢だったのか。母后は子供のような好奇心で私を問い詰めた。
私は正直に母后に話した。「あの人、簫を吹いていたわ。」
母后の顔色がたちまち変わった。私はこの夢の大切さに気づき、続けざまに問い詰めた。母后は黙して語らず、私は引き下がるしかなかった。
その後数日のうちに、母后はどんどん年老いていった。父王の目には悲しみがあふれていた。私はもう問い詰めたりはしなかった。ただ、母后のことが心配だった。
written by 羽貝
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母后は笑って答えた。「イ肖児、お前が今見たのは夢。お前の成人の夜から今までのところはただの夢。でも、夢の中の男はお前の未来の運命の人なのよ。さあ、慌てないで。お母さんにその人の様子を話してごらん。」
私は困ったように笑った。夢だったのか。母后は子供のような好奇心で私を問い詰めた。
私は正直に母后に話した。「あの人、簫を吹いていたわ。」
母后の顔色がたちまち変わった。私はこの夢の大切さに気づき、続けざまに問い詰めた。母后は黙して語らず、私は引き下がるしかなかった。
その後数日のうちに、母后はどんどん年老いていった。父王の目には悲しみがあふれていた。私はもう問い詰めたりはしなかった。ただ、母后のことが心配だった。
written by 羽貝
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≪もしこれが愛なら【3】≫
2004年3月18日 連載 次の日、海面に出て、人の世に行ってみた。初めてこんなに近くで青空を見た。人を見た。私はめいっぱい飛び跳ねた。夜になり、静けさに包まれると、突然簫の音が聞こえてきた。美しい簫の音は、低く沈み、物憂げに私の300年の歩みに付き添ってきたのだ。私はどうしてもこの音がどこから来るのか知りたくて、眼術を使った。するとたちどころに目の前の夜の風景が真昼のように明るくなった。それほど遠くない岩の上にひとりの美しい男が坐っているのが見えた。彼の要望は父王に劣らないと断言できた。以前母后が言っていた人の世に満ちる人を欺く簫の音というのは、目の前のこの男が吹いていたものだったのだ。ただ不思議に思った。なぜ300年も簫の音が高く低く続いてきたのか?人の命には限りがあるのではないのか?、と。姉が言ったことがある。人間は長く生きても寿命は100年。それならなぜ彼は、300年も生きてこられたのか?私は思わず胸が熱くなり、彼の元へ泳いで行った。私がもう少しで彼のところに泳ぎつくというとき、彼は突然立ち上がった。まさか彼に私が見えたのか?ありえない。私は遁身の術を使っていた。たとえ彼が何でも見ぬく眼力を持っていたとしても、見ることはできないはずだ。まさか彼も人魚だと言うのか?その男は狂ったように私に向かって来た。それを見て私は驚き立ち止まった。私の思考は瞬時に停止してしまった。なぜ、彼に懐かしさを感じるの?なぜ、彼は母后の名前を叫んでいるの?「連裳、連裳、連裳!」と。なぜ、彼はあんなに若いの?私は気を失った。
written by 羽貝
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written by 羽貝
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