別れを切り出された。場所は豪華な喫茶店だった。彼は言った。
 「オレら性格が合わないな。」
 こうも言った。
 「おまえオレより夢のほうを大事にしているからな。」
 私は彼の目を見ていた。彼は視線を避けていた。私を永遠に愛してくれると誓ったこの男が、今は長々と別れの理由を並べ立てている。私はいっそ別れてしまった方がいいだろうと思った。彼は言葉を締めくくった。彼は不思議に思っていた。なぜ私は表情を変えないのだろう。なぜ行動しないのだろう。彼には私が考えていることがわかっていなかった。きっと別の女性が向かいの男性にコーヒーをついであげている、そんな感じだったのではないだろうか。少なくとも私の表情には怒りが見て取れたはずだ。ボーイフレンドにふられたのだから。でも、おかしかったのは、私は少しも怒っていなかった。私は彼を恨んでいなかった。つまり、彼を愛していなかったし、信じたこともなかった。私にとって愛情とは、無味乾燥な生活の中での、ある種調味料でしかなかった。でも、最後にはやっぱり涙が流れた。彼は満足した。この涙は男の自尊心を満足させた。私はずっと演技のうまい女優だった。この点だけは疑いの余地がない。

 気にしてない、ほんとうに気にしてない、心の中で大声で叫んだ。寒い冬の日に私の手を入れてくれるポケットがなくなったっていうだけじゃない。雨の降る日にぼんやり大きなバラの花束を持って私を待っている人がいなくなったっていうだけじゃない。気にしてない?気にしてないよ!でも、今夜はやっぱり飲みに行きたい気分。この駆け足で通り過ぎて行った愛を葬るために。

 夜遅くお酒の匂いをプンプンさせて家に帰ると、夢が待っていた。窓から黄色い明かりがもれてくるのを見ると、心の中に何とも言いようのない感動が湧き上がった。少なくともまだあなたがいるわ。

 夢が冷たいタオルで私の額を拭いてくれているのを感じた。とても気持ちよかった。これで眠れる、これで眠れるのよ。全身の疲れを脱ぎ捨てて。熟睡の中、冷たい液体が私の顔の上に落ちてくるのを感じていた。。。

 早朝のいちばん初めの日の光が私にくちづけて、目を覚ましてくれた。長い間こんなにぐっすり眠ったことはなかった。台所に入ると、夢が忙しそうな後ろ姿があった。すぐに心が満たされた気がした。
夢が言った。
 「早く朝ご飯食べなさい。食べたら外行って一日遊ぶんだからね。」
 私はうれしくて子供のように彼女に甘えた。
 「よしよし、パンも食べてね。」
 ふふふ、と私は笑った。私が夢の前で弱さを見せたのは、これが最初で最後だった。

  朝食が済むと、私たちは公園へ行った。公園ではおじいさんやおばあさんが太極拳をしていた。彼らは心穏やかで落ち着いた様子で、とてもノンビリしていた。私たちは彼らの前に立った。夢が聞いた。
 「私たち、年取ったらさぁ、あの人たちみたいにいっしょに公園で太極拳やってるのかなぁ?」
 私は大まじめで答えた。
 「うん、ぜったいね。私たち一生いっしょなんだからね。」

 その日の夢は蝶のように花の中で舞っているようだった。私は遠くから彼女を眺めて、なんだか彼女が去って行くときが近づいているような気がしていた。

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 とうとう4年が過ぎた。私は好きな専攻を捨てて、ある外資系企業に入った。すぐにお金がほしかったのだ。そして、やっとこの日を迎えた。駅から出て、一目で彼女を見つけた。彼女は変わっていなかった。私たちはまるでタイムトンネルでも通ってきたように、また4年前に戻った。2人の女の子がはだしになって、土手の上に座って内緒話、鈴の音のような笑い声を振りまいた、あのころに。私は近づいて行って、彼女を見た。彼女のまつ毛には以前のように日の光が踊っていた。そうそう、これが私のよく知っている笑顔だ。うんうん、何にも変わってないよ。彼女は私の髪をなでながら、言った。
 「あなた髪を切ったのね。」
 「そう、いろんなことにわずらわされたくなかったからね。」
 私は笑いながら言った。
 「約束を守りに来たよ。あなたを連れて行くからね。」

 次の日私たちは私の住んでいる町に戻った。夢の荷物はかわいそうなぐらい少なかった。

 彼女はずっと友達の家に身を寄せていた。十数人がひとつの部屋に詰め込まれ、吸殻やビール瓶がそこらに散乱していた。部屋の中には針金が渡され、
そこにはめいっぱい毛布や靴下や下着までもが掛けられていた。夢はまっすぐに入って、いちばん奥のベッドまで行くと、ベッドのそばの旅行用バッグの中に洗面用具を入れて、出て来た。私はバッグを手に提げ、彼女の手を引っぱりながら、足早にこの悪夢のような場所を後にした。

 道中ずっと何も話さなかった。彼女は
 「怒ってるの?」
 とたずねた。
 私は振りかえり彼女を抱きしめて、泣きながら言った。
 「そうだよ、怒ってるよ。自分に腹が立つの。もっと前から、ずっと前からわかっているはずだったのに、あなたがいい生活をしていないってことを。もっと早く帰って来るべきだった、ごめんなさい!」
 彼女は私の背中をたたきながら言った。
 「よしよし、泣かないでね。すべて過ぎ去ったことよ。」
 彼女をきっと幸せにする。もうひとりにはしない。でも、幸福って何だろう?たぶん私にもよくわかっていない。私は私が理解している幸福というものを、彼女の脳に注入したが、これが彼女にとっても幸福であるのかどうか、それまで考えたこともなかった。

 私たちの家は簡単なものだったが、暖かくすてきな香りにあふれていた。夢はいろんな布を探してきて、カーテンやクッションを縫った。テーブルには生き生きとした花が飾った。彼女は私たちの家を夢の世界の花園みたいにしてくれた。私は毎朝出勤して、午後に帰った。家では夢がご飯を作って私を待っていてくれた。夕飯が終わって、パソコンの前で仕事をしているとき、彼女はそばにすわって本を読んでいた。時々、私は彼女を連れて散歩に出かけた。リラックスして快適な毎日が過ぎて行った。私は自分が作ったこの生活に酔いしれていた。しかし、夢がどう思っているのか、見落としてしまっていた。私がいないとき、彼女はどうやって時間をつぶし、寂しさをまぎらしているのだろう?私は彼女を自分のものだと思っていた。横柄にも彼女に
 「これはダメ、あれはダメ。」
 などと命令していた。彼女は言い返しもせず、ただ私が用意したものすべてを受け入れていた。

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 その意地っ張りな男の子は、道の向こう側の街灯のそばの木の下でずっと立っていた。彼の背筋はまっすぐに伸び、真っ白なシャツを着ていた。彼はずっと前から夢のことが好きだった。夢はカーテンを閉めてしまって、それからすみっこをちょっとめくって、その男の子のことをじっと見つめていた。彼女は顔を窓にもたせかけた。小さな啜り泣きの声が聞こえた。
 「どうして彼にチャンスをあげないの?あなた自身にとってもチャンスでしょ?あなたは彼のことが好きなんでしょ?」
 私は彼女の顔をこちらに向けた。彼女は首を振って言った。
 「私、彼のことを受け入れることなんてできない。私の心のなかには、底無しのブラックホールがあるの。自分でも何が必要なのかわからないし、彼がわかるはずもないわ。私は彼に幸せをあげることなんてできないのよ。」

 夢は安心するということのない子だった。彼女の心は休む場所を求めていつもさすらっていた、でも、そんな場所は見つからなかった。彼女は言った。
 「世の中にはこんな鳥がいるの。生まれつき両足がなく、飛びつづけるしかなくて、風の中で休むの。一生で一度だけ地面に降りるときがあるのだけれど、それは、死ぬとき。」
 そして、彼女はその鳥なのだ。私は言った。
 「私があなたに家をあげる、いっしょに住むの、ずっといっしょよ。あなたを守ってあげるわ。」
 これが私の約束だった。私はそれまで約束などしたことがなかった。でも、いったん決めたら、破ったりしない。彼女は笑った。心のそこからの笑顔だった。笑顔の中にはなにか別のものが混ざっていた。でも、当時の私はそれに気づかなかった。
 「ほんとうにこのままでいられるんだ。ずっと楽しく笑って。長い間ずっと。」
などと思っていた。

 大学では、私はいっしょうけんめいに勉強した。手を休める暇もなく、なんでもかんでもやっていた。考えることはたったひとつ、早く仕事について夢を迎えに行く、それだけだった。たまにしか来ない彼女の手紙で、彼女がいい生活をしていないことを知った。おばさんが彼女を追い出して、彼女は仕事を探さなければならなくなった。彼女は世間知らずで、ずっと子供のままだ。私は手紙を書き続けるしかなかった。
 「がんばれ、がんばれ、私が卒業するのを待ってて。迎えに行くからね。」
 と書いていた。

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 彼女に気づいたのは、白いスカートがシンプルであか抜けしてたからだ。

 彼女は静かに校長室の外に立って、窓の外を眺めて、なにかボソボソと言っていた。私はちょっと気になったので、近づいて行ってたずねた。
 「誰と話しているの?」
 彼女は振り向いた。太陽が突然私の目に飛び込んできた。すごくきれいな顔、明るく輝くひとみと真っ白な歯、長いまつ毛。照りつける太陽の下、金メッキでもしたかのように輝いて見えた。彼女は言った。
 「私、木の葉と話していたの。木の葉はね、外は天気がいいね、ピクニックにぴったりだよ、って言ってるよ。」
 彼女のキラキラした笑顔、私の心に突然痛みが走った。何とも言いようのない痛みだった。私は彼女の目の中に寂しさを見て取った。

 再び彼女に会ったのは、彼女が教壇の上に立っているときだった。担任の先生がみんなに紹介した。
 「こちらが新しいクラスメートです。名前は“夢”さんです。」
 夢、私は心の中で繰り返してみた。教壇の上の彼女は、まだおとなしく、世間のことがよくわかっていない子供のように、人前で何をどうしたらいいのかわからない様子だった。彼女の席は私の席のそばになった。先生は言った。
 「Summerさん、あなたは班長だから、寮の部屋も同じにします。面倒を見てあげなさい。」
 私は夢の肩をポンとたたいて、笑って言った。
 「安心して。守ってあげるよ。」
 彼女は私の前に立って、笑うに笑えないような顔をして私を見た。何年も経ったあと、私はこの時のことを思い出して、やっとわかった。最初から私は全くの無力だったのだ。

 私たちは土手にすわっていた。だれかが花火を打ち上げた。花火は空へ昇って行って、パッときらびやかな花を開いた。そしてすぐに流れ星のように流れ落ち、消えた。夢が言った。
 「花火って寂しいね。長い間待ってて、最後の一瞬のためだけに打ち上げられて、空中で音も出さずに広がって、みんなは美しい光の花を見るだけ。だれも花火の喜びとか悲しみを理解してはくれないのよ。」
 私は横を向き、彼女を見た。彼女の顔は花火に照らされたり、暗がりに溶けこんだりしていた。ふたつの瞳は計り知れないほど深みを増していた。この時の彼女は、こんなふうに初めて会った人みたいで、私は少し狼狽していた。私は自分の手を見つめた。青白く力がなかった。握り締めてみた。空気を捉えただけだった。私は自分が何でもコントロールできるものと思っていた。でも、彼女をコントロールできていないことにふと気がついた。なんだか恐い気がした。彼女はたぶん私がいつもと違うことに気がついていたのだろう、小さな声で私に言った。
 「どうしたの?」
 私は何も言えず、なんだか泣き出しそうになっていた。

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