≪ミートとローラ【7−2】≫
2004年4月18日 連載 「神様!これはいったいどうしたことなの?いったい何が起こったの?」見知らぬ女性はそう言いながら小さな鉄のクリップをはずしながら半分に切れた尻尾を拾いあげた。「これは白いマウスのものだわ!教授、見てください。」
教授は尻尾を受け取って見てみた。そして頭を低くして籠と籠の中の白いマウスをジロジロ調べた。彼の目に映ったのは口元の毛に点々と血の跡をつけたローラだった。そして身を起こして考え込み、ブツブツ言った。「半分に切れた尻尾?マウスの数は減っていない!ううむ……おもしろい。」
「何をおっしゃっているんですか?」見知らぬ女性には教授の声がはっきりと聞き取れなかった。
「うむ、何でもない。私は先に教室へ行く。子供たちが来ているはずだ。君はここを片付けておいてくれたまえ。」言い終わると、教授は籠を提げて出て行った。
ローラは静かに籠の中ではいつくばっていた。彼女はよけいなことは何も考えていなかった。ただミートと過ごした日々を思い出していただけだった。彼女は思った。「もし幸せな記憶を持ったまま死ねるなら、来世はきっとミートに会える。ミート……」
ミート!!ローラは突然目を見開いた。ミートが部屋から出てきて、教授の跡をつけて来たのだ。バカ!どうして逃げないの?つけて来てどうしようっていうの?ローラは必死にミートに向かって首を振って、早く逃げさせようとした。しかしミートはまるで何も見えないかのように、跡をつけ続けた。ローラは降りしきる雨のように涙を流した。ミートはやはり彼女を見捨てなかったのだ。彼女にはとっくにわかっていた。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
教授は尻尾を受け取って見てみた。そして頭を低くして籠と籠の中の白いマウスをジロジロ調べた。彼の目に映ったのは口元の毛に点々と血の跡をつけたローラだった。そして身を起こして考え込み、ブツブツ言った。「半分に切れた尻尾?マウスの数は減っていない!ううむ……おもしろい。」
「何をおっしゃっているんですか?」見知らぬ女性には教授の声がはっきりと聞き取れなかった。
「うむ、何でもない。私は先に教室へ行く。子供たちが来ているはずだ。君はここを片付けておいてくれたまえ。」言い終わると、教授は籠を提げて出て行った。
ローラは静かに籠の中ではいつくばっていた。彼女はよけいなことは何も考えていなかった。ただミートと過ごした日々を思い出していただけだった。彼女は思った。「もし幸せな記憶を持ったまま死ねるなら、来世はきっとミートに会える。ミート……」
ミート!!ローラは突然目を見開いた。ミートが部屋から出てきて、教授の跡をつけて来たのだ。バカ!どうして逃げないの?つけて来てどうしようっていうの?ローラは必死にミートに向かって首を振って、早く逃げさせようとした。しかしミートはまるで何も見えないかのように、跡をつけ続けた。ローラは降りしきる雨のように涙を流した。ミートはやはり彼女を見捨てなかったのだ。彼女にはとっくにわかっていた。
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≪ミートとローラ【7−1】≫
2004年4月17日 連載七
とうとう廊下のほうから足音が聞こえてきた。
ミートとローラは黙ったまま向かい合っていた。彼らの口の周りの白い毛には点々と血の跡がついていた。鉄柵は彼らにかじられボロボロになってはいたが、破れてくれそうな気配は少しもなかった。
ローラは思いを込めてミートの目を見ながら言った。「ミート、あなた、私にかまわずに逃げてちょうだい。あなたに会えたのは前世で功徳を積んだおかげです。あなたといっしょにいた日々は私の一生でいちばん楽しいときでした。私は永遠にあなたのことを忘れません。ほんとうにしあわせでした。今生での私たちの縁はこれで終わりだけれど、来世では必ずあなたを見つけ出します。早く逃げてください……愛しているわ。」
ミートは何も言わなかった。彼はただ静かにローラを見ていた。足音がドアのところで停まった。ミートは向きを変えて隠れた。
ドアが開いた。見知らぬ女性と教授が入って来た。彼らは籠の前まで来た。見知らぬ女性は驚きの声を上げた。眼前の光景にどれだけ彼女が驚かされたことだろう。:小さな鉄のクリップは締まっていて、そこには半分に切れた尻尾が挟まっている。テーブルの上には小さな血だまりができている。そして、鉄柵はボロボロにかじられている。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
とうとう廊下のほうから足音が聞こえてきた。
ミートとローラは黙ったまま向かい合っていた。彼らの口の周りの白い毛には点々と血の跡がついていた。鉄柵は彼らにかじられボロボロになってはいたが、破れてくれそうな気配は少しもなかった。
ローラは思いを込めてミートの目を見ながら言った。「ミート、あなた、私にかまわずに逃げてちょうだい。あなたに会えたのは前世で功徳を積んだおかげです。あなたといっしょにいた日々は私の一生でいちばん楽しいときでした。私は永遠にあなたのことを忘れません。ほんとうにしあわせでした。今生での私たちの縁はこれで終わりだけれど、来世では必ずあなたを見つけ出します。早く逃げてください……愛しているわ。」
ミートは何も言わなかった。彼はただ静かにローラを見ていた。足音がドアのところで停まった。ミートは向きを変えて隠れた。
ドアが開いた。見知らぬ女性と教授が入って来た。彼らは籠の前まで来た。見知らぬ女性は驚きの声を上げた。眼前の光景にどれだけ彼女が驚かされたことだろう。:小さな鉄のクリップは締まっていて、そこには半分に切れた尻尾が挟まっている。テーブルの上には小さな血だまりができている。そして、鉄柵はボロボロにかじられている。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【6−2】≫
2004年4月15日 連載 「やってみようよ。」ミートの声はあまりはっきりしていなかった。彼自身も自信が持てなかったのだ。でも実際他に方法がない。ムダなことはわかているが、とりあえずやってみようじゃないか。ひょっとすると神様の気まぐれで奇跡起こるかもしれない。
そしてミートとローラはいっしょにいちばん細そうな格子を見つけ、最後の一仕事に取りかかった。彼らは順番にかじった。鉄柵に塗ってあったペンキが剥げた……格子が削られて光ってきた……周りに小さな傷がついてきた……少しずつ浅い溝ができてきた……部屋が明るくなり始めた……やわらかな日差しが差し込んできた……
ミートとローラは口の周りに噛み削った鉄柵から出たとげでケガをしていた。一晩中飲まず食わずの状態と疲れで彼らはヘトヘトだった。さらにミートには尻尾を切った痛みもあって、もうすでにこれ以上かじり続けることはできなかった。ほんとうにもうだめなのか……ほんとうにこのまま終わってしまうのか……
written by 一線雲児
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そしてミートとローラはいっしょにいちばん細そうな格子を見つけ、最後の一仕事に取りかかった。彼らは順番にかじった。鉄柵に塗ってあったペンキが剥げた……格子が削られて光ってきた……周りに小さな傷がついてきた……少しずつ浅い溝ができてきた……部屋が明るくなり始めた……やわらかな日差しが差し込んできた……
ミートとローラは口の周りに噛み削った鉄柵から出たとげでケガをしていた。一晩中飲まず食わずの状態と疲れで彼らはヘトヘトだった。さらにミートには尻尾を切った痛みもあって、もうすでにこれ以上かじり続けることはできなかった。ほんとうにもうだめなのか……ほんとうにこのまま終わってしまうのか……
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≪ミートとローラ【6−1】≫
2004年4月15日 連載六
どれぐらいの時間がたったのだろうか。ミートはだんだん目が覚めてきた。ゆっくりと目を開いたが、目の前は真っ暗で何も見えなかった。彼は自分の目がおかしくなったのだと思った。そして、あたりを見回して、やっと夜になったのだということがわかった。
「ミート!目が覚めたの?」ローラの声だった。声のするほうに目をやると、ローラの赤く泣き腫らした目が見えた。
「ローラ、あ……」ミートは立ちあがった。思わず尻尾を踏んづけて痛みが走った。振り向いて見ると、尻尾は半分しか残っていなかった。そして小さな血だまりができていた。
「ミート……」ローラは何か言おうとして口を開いたが、こんなときに何を言っても気持ちを伝えることはできないと思い、また口をつぐんだ。申し訳なさ、感動、そして心痛、そんな気持ちでミートを見つめた。
ミートは軽く尻尾を振ってみた。痛みはそんなにひどくはなかった。彼はローラに安心するように言った。そして小さな鉄の扉に近づいて行った。小さな鉄片がしっかりとスプリングロックを覆ってしまっていて、そこに彼の半分に切れた尻尾が挟まっていた。どうやら、小さな鉄の扉を開けるのは不可能になったようだ、とミートは思った。彼はそこらじゅうくまなく調べた。小さな鉄の籠にはもう他に逃げ道はなくなってしまった。
ローラはミートが籠の周りを行ったり来たりするのを見て、悲しそうな表情を浮かべた。そして心配して尋ねた。「ミート、もう逃げる方法はなくなったの?」
「ううむ……」ミートは低くつぶやいた。「まだ最後のどうしようもない方法があるさ―――鉄柵をかじってみるのさ。」
「え?!そんなことできるの?」ローラはびっくりして尋ねた。
written by 一線雲児
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どれぐらいの時間がたったのだろうか。ミートはだんだん目が覚めてきた。ゆっくりと目を開いたが、目の前は真っ暗で何も見えなかった。彼は自分の目がおかしくなったのだと思った。そして、あたりを見回して、やっと夜になったのだということがわかった。
「ミート!目が覚めたの?」ローラの声だった。声のするほうに目をやると、ローラの赤く泣き腫らした目が見えた。
「ローラ、あ……」ミートは立ちあがった。思わず尻尾を踏んづけて痛みが走った。振り向いて見ると、尻尾は半分しか残っていなかった。そして小さな血だまりができていた。
「ミート……」ローラは何か言おうとして口を開いたが、こんなときに何を言っても気持ちを伝えることはできないと思い、また口をつぐんだ。申し訳なさ、感動、そして心痛、そんな気持ちでミートを見つめた。
ミートは軽く尻尾を振ってみた。痛みはそんなにひどくはなかった。彼はローラに安心するように言った。そして小さな鉄の扉に近づいて行った。小さな鉄片がしっかりとスプリングロックを覆ってしまっていて、そこに彼の半分に切れた尻尾が挟まっていた。どうやら、小さな鉄の扉を開けるのは不可能になったようだ、とミートは思った。彼はそこらじゅうくまなく調べた。小さな鉄の籠にはもう他に逃げ道はなくなってしまった。
ローラはミートが籠の周りを行ったり来たりするのを見て、悲しそうな表情を浮かべた。そして心配して尋ねた。「ミート、もう逃げる方法はなくなったの?」
「ううむ……」ミートは低くつぶやいた。「まだ最後のどうしようもない方法があるさ―――鉄柵をかじってみるのさ。」
「え?!そんなことできるの?」ローラはびっくりして尋ねた。
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≪ミートとローラ【5−3】≫
2004年4月14日 連載 「神様!!ミート!!ど……どうしたの?」
「な、なんでもないよ。ローラ……大声を出しちゃダメだ。……そ……外の……人に聞こえちゃまずい。」
「ミート!!」ローラはひどく心を痛めた。
ミートは痛みをこらえて振り向き、自分の尻尾を見た。その長い尻尾はすごい力の鉄のクリップで真ん中ぐらいのところをしっかりと挟まれていた。少しでも身動きすると耐えがたい痛みが走る。尻尾はもう切られてしまったような感じがした。どうしよう?ミートは眉に皺を寄せた。こんなことはしていられないのはわかっている。こんなことをしていると捕まってしまう。ローラが解剖される運命から逃れる望みもなくなってしまう。解剖!!この2文字を思い浮かべると、ミートの心は縮みあがった。残酷だ。なんとしてもローラを助けなければならない!
籠の中のローラはポロポロ涙を流しながらミートを見た。彼女は自分が恨めしかった。自分はどうしてこんなに愚かなのだろうと思った。逃げ出せなかっただけでなく、ミートにまでこんな目に遭わせるとは。もし自分がいなかったら、ミートは今ごろ自由になっていたのに。でも今は……
「ミート、だいじょうぶ?どうすればいいの?私……私……」
ミートは深く息を吸って、決心した。自分の尻尾を噛み切ることを!そうするしか逃れる手立てはない。すべてはそれから始まるのだ。
「ローラ、」ミートの声は痛みでかなり震えていたが、しっかりとしていた。「なんでもないよ、落ち着くんだ。考えがある。」
「ほんとう?どんな考え?」ローラは喜んで尋ねた。
ミートはやっとのことで穏やかな笑顔を見せながら言った。「尻尾を食いちぎればいいのさ。」
「ミート?!」ローラは目を大きく見開いた。
「どうってことないさ、ローラ。そうするしか見込みはないんだ。」
「ミート……」ローラは泣きじゃくって声にならなかった。
ミートは目を瞑り、心を落ち着かせた。振り向くと自分の尻尾を引き寄せ、ふうっと息を吸うと、一息に噛み切った!それほど大きくない音がすると身を切り裂くような痛みが走った。ミートは何もわからなくなった。
written by 一線雲児
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「な、なんでもないよ。ローラ……大声を出しちゃダメだ。……そ……外の……人に聞こえちゃまずい。」
「ミート!!」ローラはひどく心を痛めた。
ミートは痛みをこらえて振り向き、自分の尻尾を見た。その長い尻尾はすごい力の鉄のクリップで真ん中ぐらいのところをしっかりと挟まれていた。少しでも身動きすると耐えがたい痛みが走る。尻尾はもう切られてしまったような感じがした。どうしよう?ミートは眉に皺を寄せた。こんなことはしていられないのはわかっている。こんなことをしていると捕まってしまう。ローラが解剖される運命から逃れる望みもなくなってしまう。解剖!!この2文字を思い浮かべると、ミートの心は縮みあがった。残酷だ。なんとしてもローラを助けなければならない!
籠の中のローラはポロポロ涙を流しながらミートを見た。彼女は自分が恨めしかった。自分はどうしてこんなに愚かなのだろうと思った。逃げ出せなかっただけでなく、ミートにまでこんな目に遭わせるとは。もし自分がいなかったら、ミートは今ごろ自由になっていたのに。でも今は……
「ミート、だいじょうぶ?どうすればいいの?私……私……」
ミートは深く息を吸って、決心した。自分の尻尾を噛み切ることを!そうするしか逃れる手立てはない。すべてはそれから始まるのだ。
「ローラ、」ミートの声は痛みでかなり震えていたが、しっかりとしていた。「なんでもないよ、落ち着くんだ。考えがある。」
「ほんとう?どんな考え?」ローラは喜んで尋ねた。
ミートはやっとのことで穏やかな笑顔を見せながら言った。「尻尾を食いちぎればいいのさ。」
「ミート?!」ローラは目を大きく見開いた。
「どうってことないさ、ローラ。そうするしか見込みはないんだ。」
「ミート……」ローラは泣きじゃくって声にならなかった。
ミートは目を瞑り、心を落ち着かせた。振り向くと自分の尻尾を引き寄せ、ふうっと息を吸うと、一息に噛み切った!それほど大きくない音がすると身を切り裂くような痛みが走った。ミートは何もわからなくなった。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【5−2】≫
2004年4月13日 連載 「ローラ、ローラ、こっちに来てごらん。しっかりするんだ。ボクがついているよ。ボクがなんとかしてあげる。こっちにおいで。顔を見せておくれ。」ミートは優しくではあるが切迫したように呼びかけた。
ローラはとうとう立ちあがった。彼女はミートのそばに歩み寄った。ミートはローラの手を握り、哀れむようにいたわるように彼女を見た。彼らが手をつないだのはこれが2度目だった。たった2回だというのにこんな目に遭うとは。残酷過ぎる。運命はほんとうにめまぐるしく移り変わる。手の施しようがない。神様が彼らの愛を試してみているのではあるまいが。ミートはローラを見つめた。さまざまな思いが頭をよぎった。
「ミート、何か考えがあるの?この扉を開けられるの?」ローラは尋ねた。
「扉?あ、そうか。見てみる。待ってて。」ミートはそう言いながら、小さな扉のところにやって来た。
この鉄の扉には鎖は掛けてなかった。U字型のスプリングロックが掛けてある。小さな鉄の扉の側面には長い鉄板があててあった。いったい何だろう?ミートは見てみた。クリップのようだ。スプリングロックを保護するためのものか?ミートはいろいろ探ってみた。そして、特別なものではないようだと思った。このスプリングロックなら自分で開けられるかもしれない。とにかく、チャンスがある限りやってみなくてはならない。用心してそれに触らないようにすればいいじゃないか、と彼は思った。そして、彼は小さな鉄の扉に近づくと、用心深くしっかりとかかっているスプリングロックに手を伸ばしてみた。意外にも、彼が力を入れるやいなや、ガタンという音がしてそのクリップのような小さな鉄板が急に締め付けてきたのである!ミートは慌てて身を翻し、驚きで冷や汗を流した。彼は用心していたので逃げることができた。クリップのような物は彼の体にはかからなかった。しかし、たいへんなことになった。そのクリップにしっかりと彼の尻尾が挟まれてしまったのだ!!ミートのからだの芯に痛みが走った。彼は歯を食いしばって声をあげなかった。外の人間に気づかれるのを恐れたからである。ローラはすべてを見届け、恐怖のため口を覆った。
written by 一線雲児
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ローラはとうとう立ちあがった。彼女はミートのそばに歩み寄った。ミートはローラの手を握り、哀れむようにいたわるように彼女を見た。彼らが手をつないだのはこれが2度目だった。たった2回だというのにこんな目に遭うとは。残酷過ぎる。運命はほんとうにめまぐるしく移り変わる。手の施しようがない。神様が彼らの愛を試してみているのではあるまいが。ミートはローラを見つめた。さまざまな思いが頭をよぎった。
「ミート、何か考えがあるの?この扉を開けられるの?」ローラは尋ねた。
「扉?あ、そうか。見てみる。待ってて。」ミートはそう言いながら、小さな扉のところにやって来た。
この鉄の扉には鎖は掛けてなかった。U字型のスプリングロックが掛けてある。小さな鉄の扉の側面には長い鉄板があててあった。いったい何だろう?ミートは見てみた。クリップのようだ。スプリングロックを保護するためのものか?ミートはいろいろ探ってみた。そして、特別なものではないようだと思った。このスプリングロックなら自分で開けられるかもしれない。とにかく、チャンスがある限りやってみなくてはならない。用心してそれに触らないようにすればいいじゃないか、と彼は思った。そして、彼は小さな鉄の扉に近づくと、用心深くしっかりとかかっているスプリングロックに手を伸ばしてみた。意外にも、彼が力を入れるやいなや、ガタンという音がしてそのクリップのような小さな鉄板が急に締め付けてきたのである!ミートは慌てて身を翻し、驚きで冷や汗を流した。彼は用心していたので逃げることができた。クリップのような物は彼の体にはかからなかった。しかし、たいへんなことになった。そのクリップにしっかりと彼の尻尾が挟まれてしまったのだ!!ミートのからだの芯に痛みが走った。彼は歯を食いしばって声をあげなかった。外の人間に気づかれるのを恐れたからである。ローラはすべてを見届け、恐怖のため口を覆った。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【5−1】≫
2004年4月12日 連載五
ドアにまた鍵がかけられたあと、ミートはテーブルに跳び上がった。
「ローラ!ローラ!」ミートは籠に駆け寄り鉄柵をつかんで大声で叫んだ。
ローラはまるで聞こえていないかのようだった。ピクリとも動かずに腹ばいになっていた。目は虚ろでぼうっとしていた。
ミートはあせった。彼はローラに向かって両手を伸ばし大声で叫んだ。「ローラ!おーい!だいじょうぶか?早くこっちに来て顔を見せてくれ。……ローラ、そんなことしてちゃダメだ。あきらめるな。立つんだ、ローラ。君は強い子だ。ボクらは絶望しちゃいけないんだ。ボクがいるだろ。ボクがいるじゃないか。ボクがなんとかしてあげるから。……ローラ、もし君が絶望してしまったら、ボクはどうすればいいんだ?……立つんだ!ローラ!……立ってくれ……ボクは……君を愛している……ローラ……」
ミートはのどが詰まって声が出なくなった。
「……ミート……」ローラにやっと目の輝きが戻った。彼女はミートが涙を流しているのをはっきりと見た。胸を刀でえぐられたような気持ちがしていた。
「ミート、私はどうしたらいいの?なぜこんなことになったの?私の何が悪かったの?……ミート……私、死にたくない……ミート……」ローラは涙で声が出なかった。
written by 一線雲児
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ドアにまた鍵がかけられたあと、ミートはテーブルに跳び上がった。
「ローラ!ローラ!」ミートは籠に駆け寄り鉄柵をつかんで大声で叫んだ。
ローラはまるで聞こえていないかのようだった。ピクリとも動かずに腹ばいになっていた。目は虚ろでぼうっとしていた。
ミートはあせった。彼はローラに向かって両手を伸ばし大声で叫んだ。「ローラ!おーい!だいじょうぶか?早くこっちに来て顔を見せてくれ。……ローラ、そんなことしてちゃダメだ。あきらめるな。立つんだ、ローラ。君は強い子だ。ボクらは絶望しちゃいけないんだ。ボクがいるだろ。ボクがいるじゃないか。ボクがなんとかしてあげるから。……ローラ、もし君が絶望してしまったら、ボクはどうすればいいんだ?……立つんだ!ローラ!……立ってくれ……ボクは……君を愛している……ローラ……」
ミートはのどが詰まって声が出なくなった。
「……ミート……」ローラにやっと目の輝きが戻った。彼女はミートが涙を流しているのをはっきりと見た。胸を刀でえぐられたような気持ちがしていた。
「ミート、私はどうしたらいいの?なぜこんなことになったの?私の何が悪かったの?……ミート……私、死にたくない……ミート……」ローラは涙で声が出なかった。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【4−2】≫
2004年4月11日 ミートは部屋をしげしげと観察した。この部屋は奥の部屋だ。彼らは外の部屋にいる。壁際にはいくつか棚があって、試験管、鉄製の台、アルコールランプ、石綿網などが置かれている。ほかにも鉗子、トレーなどがある。研究室の設備とほぼ同じで、特に変わったところはない。ミートはテーブルから飛び降りると、奥の部屋に入っていった。奥の部屋は外の部屋とだいたい同じ広さで、こちらも台がいくつかあった。その上にはたくさんのビンやカンが置かれていて、中には奇妙な物が入れられていた。ミートは台の上に跳び乗り、詳しくそれらを見てみた。5,6個見てみたが、わからない。すべて黄色がかった“水”に奇妙な形の赤い肉のような色のものが浸かっていた。ミートは向きを変え、ローラのところに戻ってきて、自分が見たものを彼女に教えてやった。ローラが何か言おうとしたとき、突然ドアの鍵を開ける音がした。人が来たのだ!ミートは急いで身を隠した。彼が見たのはまたしてもあの見知らぬ女性だった。しかし、今度はその後ろにひとりの老人がついて来ていた。
ふたりは小さな鉄の籠の前まで来た。見知らぬ女性が振り向いて老年の男に言った。「教授、見てください。これが私が持ってきた白いマウスです。」
「うむ、」教授と呼ばれた老年の男は腰をかがめのぞきこみながら言った。「なかなかじゃ、明日は子供たちに解剖実験をさせよう。」
解剖!!神様!彼らはローラを解剖しようとしているのか!!ミートは卒倒しそうになった。ローラはすでに腰を抜かしてしまっていた。
「あ、教授、」見知らぬ女性がまた口を開いた。「もうひとつ興味深いことがありましたので、ご報告します。今日私が研究室でこの白いマウスを取っているときに、スキをついて1匹逃げ出してしまったんですよ。走るのが早くてあっという間にどこかに行ってしまいました。まるで前々から狙っていたみたいでした。どうも人間に育てられた白マウスらしくないですね。」
「ん?そうか?」教授はちょっと驚いた様子だった。
「そうです。あのときはびっくりしました。」
教授は低い声でつぶやいて、微笑んでうなずきながら見知らぬ女性に言った。「ネズミというやつは賢い動物だ。ヤツらの行動は時々人間の想像を超えるときがある。もしかするとこいつら、籠の中の生活について言い分があるかもしれんな。ははは!君、こいつらをよく見ておきたまえ。」
「だいじょうぶです、教授。実はこの籠はもう頑丈にしてありますので。でも、もうちょっと用心しておけば、何が起きても安心ですね。」見知らぬ女性がそう言いながら、引出しに手を伸ばして何か取り出し籠の鉄の扉の上に置いた。
「こうやっておけば、だいじょうぶ。」見知らぬ女性は得意げに言った。
教授は肩をすくめた。ふたりはいっしょに出て行った。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
ふたりは小さな鉄の籠の前まで来た。見知らぬ女性が振り向いて老年の男に言った。「教授、見てください。これが私が持ってきた白いマウスです。」
「うむ、」教授と呼ばれた老年の男は腰をかがめのぞきこみながら言った。「なかなかじゃ、明日は子供たちに解剖実験をさせよう。」
解剖!!神様!彼らはローラを解剖しようとしているのか!!ミートは卒倒しそうになった。ローラはすでに腰を抜かしてしまっていた。
「あ、教授、」見知らぬ女性がまた口を開いた。「もうひとつ興味深いことがありましたので、ご報告します。今日私が研究室でこの白いマウスを取っているときに、スキをついて1匹逃げ出してしまったんですよ。走るのが早くてあっという間にどこかに行ってしまいました。まるで前々から狙っていたみたいでした。どうも人間に育てられた白マウスらしくないですね。」
「ん?そうか?」教授はちょっと驚いた様子だった。
「そうです。あのときはびっくりしました。」
教授は低い声でつぶやいて、微笑んでうなずきながら見知らぬ女性に言った。「ネズミというやつは賢い動物だ。ヤツらの行動は時々人間の想像を超えるときがある。もしかするとこいつら、籠の中の生活について言い分があるかもしれんな。ははは!君、こいつらをよく見ておきたまえ。」
「だいじょうぶです、教授。実はこの籠はもう頑丈にしてありますので。でも、もうちょっと用心しておけば、何が起きても安心ですね。」見知らぬ女性がそう言いながら、引出しに手を伸ばして何か取り出し籠の鉄の扉の上に置いた。
「こうやっておけば、だいじょうぶ。」見知らぬ女性は得意げに言った。
教授は肩をすくめた。ふたりはいっしょに出て行った。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【4−1】≫
2004年4月10日 連載四
ミートずっと見知らぬ女性を追って行った。
見知らぬ女性は研究所の建物を離れ、道路を横切り、草地を通り抜けて、新し目の大きなビルに入っていった。ミートはしっかりとその後をつけて行った。
見知らぬ女性は2階に上がると廊下の突き当たりの部屋のドアを開けた。黄色い鉄製の籠をテーブルの上にちょっと置いて出て行った。ミートは当然すばしこく中へ滑り込んだ。ドアが閉まると、ミートはテーブルに駆け上った。見るとローラはたよりなく彼のほうを眺めていた。
「ローラ!」ミートは走り寄ってローラの手をしっかりと握った。彼が彼女の手を握ったのはこれが最初だった。
「ミート!」ローラもしっかりとミートの手を握った。彼女は震えていた。
「ローラ、恐がらないで、ボクがいるだろ。」ミートはローラを慰めた。
「ミート、ここはどこなの?あの人たち何をしようって言うの?私恐くって……」
「ローラ、焦らないで、ボクいろいろ見てくるね。」
written by 一線雲児
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ミートずっと見知らぬ女性を追って行った。
見知らぬ女性は研究所の建物を離れ、道路を横切り、草地を通り抜けて、新し目の大きなビルに入っていった。ミートはしっかりとその後をつけて行った。
見知らぬ女性は2階に上がると廊下の突き当たりの部屋のドアを開けた。黄色い鉄製の籠をテーブルの上にちょっと置いて出て行った。ミートは当然すばしこく中へ滑り込んだ。ドアが閉まると、ミートはテーブルに駆け上った。見るとローラはたよりなく彼のほうを眺めていた。
「ローラ!」ミートは走り寄ってローラの手をしっかりと握った。彼が彼女の手を握ったのはこれが最初だった。
「ミート!」ローラもしっかりとミートの手を握った。彼女は震えていた。
「ローラ、恐がらないで、ボクがいるだろ。」ミートはローラを慰めた。
「ミート、ここはどこなの?あの人たち何をしようって言うの?私恐くって……」
「ローラ、焦らないで、ボクいろいろ見てくるね。」
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【3−3】≫
2004年4月9日 連載 チャンス?チャンスなんてどこにあるのよ?どうして私にはチャンスが訪れないの?神様、私にもチャンスをください!ローラは心の中でずっとつぶやき、祈り続けていた。
もちろんふたりの女性はミートを見つけられなかった。女性研究員は眉をしかめため息をついた。「もういいわ。逃げたものはしょうがない。ほんとうに不思議だわね。さあ、まだメスのほうが5匹足りないわ。」
そして、女性研究員はローラが住んでいるほうの籠を開けた。ミートとローラは思わず同時に声をあげそうになった。もしローラが脱出することができれば、完全に彼らの勝利だ。しかし、そのすぐあと、かれらの心は重く海底に沈むことになる。―――女性研究員は先ほどのことを教訓にしたようで、メスをつかむときの動作は機敏で、しっかり隙間を作らないようにしていた。ローラは心中ひそかに弱音を吐いていた。今回はもうだめだわ!逃げられない。女性研究員は1匹、2匹、3匹、4匹とつかみ出した。そしてついに女性研究員の手がローラに伸びてきた!ローラは一瞬固まった。この短い時間の間に、ローラはつかみ出され黄色い小さな鉄の籠に入れられた。
「何をしようっていうんだ?」ミートとローラは不吉な予感がした。何か事件が起ころうとしていた。
見知らぬ女性は籠に鍵をかけ、さよならと言った後、ドアのほうへ向かった。
まずい!ローラが連れて行かれる!ミートはドキッとした。彼はさっと向きを変えると、見知らぬ女性が歩いて行くすぐ後をつけて行った。彼女はローラをどこに連れて行くんだ?ミートには想像もつかなかった。ローラはミートが後をつけて来ていることに気づいていた。ミートは彼女のことを放ってはおかないと思っていた。しかし、どこに連れて行かれるのか?何が起こるのか?彼女の運命はいかに?見当もつかず、恐ろしく、未知の運命が彼女をおびえさせ、震えさせた。
……ミート……見捨てないでね……ミート……
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
もちろんふたりの女性はミートを見つけられなかった。女性研究員は眉をしかめため息をついた。「もういいわ。逃げたものはしょうがない。ほんとうに不思議だわね。さあ、まだメスのほうが5匹足りないわ。」
そして、女性研究員はローラが住んでいるほうの籠を開けた。ミートとローラは思わず同時に声をあげそうになった。もしローラが脱出することができれば、完全に彼らの勝利だ。しかし、そのすぐあと、かれらの心は重く海底に沈むことになる。―――女性研究員は先ほどのことを教訓にしたようで、メスをつかむときの動作は機敏で、しっかり隙間を作らないようにしていた。ローラは心中ひそかに弱音を吐いていた。今回はもうだめだわ!逃げられない。女性研究員は1匹、2匹、3匹、4匹とつかみ出した。そしてついに女性研究員の手がローラに伸びてきた!ローラは一瞬固まった。この短い時間の間に、ローラはつかみ出され黄色い小さな鉄の籠に入れられた。
「何をしようっていうんだ?」ミートとローラは不吉な予感がした。何か事件が起ころうとしていた。
見知らぬ女性は籠に鍵をかけ、さよならと言った後、ドアのほうへ向かった。
まずい!ローラが連れて行かれる!ミートはドキッとした。彼はさっと向きを変えると、見知らぬ女性が歩いて行くすぐ後をつけて行った。彼女はローラをどこに連れて行くんだ?ミートには想像もつかなかった。ローラはミートが後をつけて来ていることに気づいていた。ミートは彼女のことを放ってはおかないと思っていた。しかし、どこに連れて行かれるのか?何が起こるのか?彼女の運命はいかに?見当もつかず、恐ろしく、未知の運命が彼女をおびえさせ、震えさせた。
……ミート……見捨てないでね……ミート……
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
≪ミートとローラ【3−2】≫
2004年4月8日 チャンス?チャンスなんてどこにあるのよ?どうして私にはチャンスが訪れないの?神様、私にもチャンスをください!ローラは心の中でずっとつぶやき、祈り続けていた。
もちろんふたりの女性はミートを見つけられなかった。女性研究員は眉をしかめため息をついた。「もういいわ。逃げたものはしょうがない。ほんとうに不思議だわね。さあ、まだメスのほうが5匹足りないわ。」
そして、女性研究員はローラが住んでいるほうの籠を開けた。ミートとローラは思わず同時に声をあげそうになった。もしローラが脱出することができれば、完全に彼らの勝利だ。しかし、そのすぐあと、かれらの心は重く海底に沈むことになる。―――女性研究員は先ほどのことを教訓にしたようで、メスをつかむときの動作は機敏で、しっかり隙間を作らないようにしていた。ローラは心中ひそかに弱音を吐いていた。今回はもうだめだわ!逃げられない。女性研究員は1匹、2匹、3匹、4匹とつかみ出した。そしてついに女性研究員の手がローラに伸びてきた!ローラは一瞬固まった。この短い時間の間に、ローラはつかみ出され黄色い小さな鉄の籠に入れられた。
「何をしようっていうんだ?」ミートとローラは不吉な予感がした。何か事件が起ころうとしていた。
見知らぬ女性は籠に鍵をかけ、さよならと言った後、ドアのほうへ向かった。
まずい!ローラが連れて行かれる!ミートはドキッとした。彼はさっと向きを変えると、見知らぬ女性が歩いて行くすぐ後をつけて行った。彼女はローラをどこに連れて行くんだ?ミートには想像もつかなかった。ローラはミートが後をつけて来ていることに気づいていた。ミートは彼女のことを放ってはおかないと思っていた。しかし、どこに連れて行かれるのか?何が起こるのか?彼女の運命はいかに?見当もつかず、恐ろしく、未知の運命が彼女をおびえさせ、震えさせた。
……ミート……見捨てないでね……ミート……
written by 一線雲児
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もちろんふたりの女性はミートを見つけられなかった。女性研究員は眉をしかめため息をついた。「もういいわ。逃げたものはしょうがない。ほんとうに不思議だわね。さあ、まだメスのほうが5匹足りないわ。」
そして、女性研究員はローラが住んでいるほうの籠を開けた。ミートとローラは思わず同時に声をあげそうになった。もしローラが脱出することができれば、完全に彼らの勝利だ。しかし、そのすぐあと、かれらの心は重く海底に沈むことになる。―――女性研究員は先ほどのことを教訓にしたようで、メスをつかむときの動作は機敏で、しっかり隙間を作らないようにしていた。ローラは心中ひそかに弱音を吐いていた。今回はもうだめだわ!逃げられない。女性研究員は1匹、2匹、3匹、4匹とつかみ出した。そしてついに女性研究員の手がローラに伸びてきた!ローラは一瞬固まった。この短い時間の間に、ローラはつかみ出され黄色い小さな鉄の籠に入れられた。
「何をしようっていうんだ?」ミートとローラは不吉な予感がした。何か事件が起ころうとしていた。
見知らぬ女性は籠に鍵をかけ、さよならと言った後、ドアのほうへ向かった。
まずい!ローラが連れて行かれる!ミートはドキッとした。彼はさっと向きを変えると、見知らぬ女性が歩いて行くすぐ後をつけて行った。彼女はローラをどこに連れて行くんだ?ミートには想像もつかなかった。ローラはミートが後をつけて来ていることに気づいていた。ミートは彼女のことを放ってはおかないと思っていた。しかし、どこに連れて行かれるのか?何が起こるのか?彼女の運命はいかに?見当もつかず、恐ろしく、未知の運命が彼女をおびえさせ、震えさせた。
……ミート……見捨てないでね……ミート……
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【3−1】≫
2004年4月7日 連載三
その後、ミートとローラは静かに辛抱強く待った。彼らは注意深く回りのすべての動静を見ていた。チャンスが知らぬ間に逃げてしまわぬように。信じることが彼らにどんなことにも立ち向かえる勇気を与えた。
ある日の午後、ミートとローラと他の仲間たちが休んでいるとき、研究室のドアが突然開いた。いつもならこんなときに、人が入ってくるはずはないのだが。ミートとローラは物音を聞いた。そしてすぐに檻に手をかけドアのところを注視した。ドアからは2人の女性が入ってきた。ひとりは彼らに餌をくれる女性研究員;もうひとりは見たことがない。手には黄色の鉄の籠を提げている。
2人の女性はまっすぐミートとローラの籠の前にやって来た。見知らぬ女性は黄色の籠の扉を開けた。女性研究員はミートが住んでいる籠の扉を開けて、マウスをつかんでその黄色の籠に入れようと手を伸ばした。そして2匹目……チャンスだ!ミートは目を見開いた。彼は女性研究員がマウスをつかみ出した後、扉を閉める動作がそれほど早くないのに気づいた。両手を入れ替える時に短いスキがある。これはまたとないチャンスだ!!彼は準備を始めた。女性研究員が5匹目をつかみ手を引っ込めようとしたとき、ミートはすばやく女性研究員の手の動きに合わせ飛び出した。成功したのだ!!ふたりの女性はこの突発的な出来事に驚いた。女性研究員はすぐさま籠の鍵をしっかりとかけ、ミートを探しまわった。ミートはこのときにはすでにドアの外へ逃げ出していた。彼はドアの陰から籠の中のローラを見上げた。ローラは感激し、ミートの成功を喜ぶ表情をしながら、焦って籠の中を走りまわっていた。ミートは逃亡に成功し、彼女も急いで逃げ出したいと思っていた。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
その後、ミートとローラは静かに辛抱強く待った。彼らは注意深く回りのすべての動静を見ていた。チャンスが知らぬ間に逃げてしまわぬように。信じることが彼らにどんなことにも立ち向かえる勇気を与えた。
ある日の午後、ミートとローラと他の仲間たちが休んでいるとき、研究室のドアが突然開いた。いつもならこんなときに、人が入ってくるはずはないのだが。ミートとローラは物音を聞いた。そしてすぐに檻に手をかけドアのところを注視した。ドアからは2人の女性が入ってきた。ひとりは彼らに餌をくれる女性研究員;もうひとりは見たことがない。手には黄色の鉄の籠を提げている。
2人の女性はまっすぐミートとローラの籠の前にやって来た。見知らぬ女性は黄色の籠の扉を開けた。女性研究員はミートが住んでいる籠の扉を開けて、マウスをつかんでその黄色の籠に入れようと手を伸ばした。そして2匹目……チャンスだ!ミートは目を見開いた。彼は女性研究員がマウスをつかみ出した後、扉を閉める動作がそれほど早くないのに気づいた。両手を入れ替える時に短いスキがある。これはまたとないチャンスだ!!彼は準備を始めた。女性研究員が5匹目をつかみ手を引っ込めようとしたとき、ミートはすばやく女性研究員の手の動きに合わせ飛び出した。成功したのだ!!ふたりの女性はこの突発的な出来事に驚いた。女性研究員はすぐさま籠の鍵をしっかりとかけ、ミートを探しまわった。ミートはこのときにはすでにドアの外へ逃げ出していた。彼はドアの陰から籠の中のローラを見上げた。ローラは感激し、ミートの成功を喜ぶ表情をしながら、焦って籠の中を走りまわっていた。ミートは逃亡に成功し、彼女も急いで逃げ出したいと思っていた。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【2】≫
2004年4月6日 連載二
その後何日か、彼らはとても楽しく過ごした。ミートは次から次へと笑い話や物語を話す。そしてローラは優秀な聞き手だった。ミートは声もよく情感たっぷりに話す。ローラはミートの話に合わせ、ときには眉をひそめ、ときには驚きの声をあげた。ミートはとても楽しかった。ひとつだけ欠けているものがあるとすれば、それは肩を並べて話すことができないということだった。氷のように冷たい鉄柵は無情にも彼らを分け隔て、彼らは遠くから見つめ合うしかなかった。研究員が彼らに餌を入れていくたびに、彼らをいっしょにしてくれるように祈ったが、いつもそれは失望に変わった。しかし、それだからといって、彼らの思いが募るのを妨げたりはしなかった。遠く離れて眺めるだけの日が愉快に過ぎていった。
ある日、ローラは寂しそうにミートに尋ねた。「ミート、私たちここにどのくらいいるのかしら?」
「ボクもわからないな。どうしてそんなことを?」
「私たち、ずっとこんなふうに離れ離れのままなのかしら。ずっとこんなふうに檻に入れられたままなのかしら。」
「……」
「ミート、どうして答えてくれないの?」
「ボク……このまんまなんていやだ。でもどうすればいいんだろう?」
「……ミート、私を愛してくれている?」
「もちろんさ、ローラ。」
「それなら……逃げ出す方法を考えましょうよ。」
「逃げるって?どうやって逃げるんだ?この檻には鍵がかかっているし、それを開けることもできないよ。」
「方法を考えるのよ。何かいい方法があるはずだわ、ミート。私たちがそう願ってさえいれば。」
「ローラ……」ミートは感激しながらローラを見た。愛、これが愛の力なのか。愛のために、彼はやってみようと思った。
それから、彼らはチャンスをうかがい始めた。研究員が餌を入れるたびに、ミートとローラは特に注意を払った。しかし研究員は未だかつて扉を開けたこともなく、餌は籠の隙間から入れられるのだった。鉄柵はかじっても食い破れるはずもなかった。
ミートはローラに言った。「鉄の檻は固くてじょうぶだ。扉にも鍵がかけてある。待つしかないな。チャンスが来るまで。焦らないで。ボクを信じてくれ。きっといっしょに逃げ出すんだ。」
「うん、信じているわ、ミート。」ローラはしっかり気持ちをこめて答えた。
written by 一線雲児
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その後何日か、彼らはとても楽しく過ごした。ミートは次から次へと笑い話や物語を話す。そしてローラは優秀な聞き手だった。ミートは声もよく情感たっぷりに話す。ローラはミートの話に合わせ、ときには眉をひそめ、ときには驚きの声をあげた。ミートはとても楽しかった。ひとつだけ欠けているものがあるとすれば、それは肩を並べて話すことができないということだった。氷のように冷たい鉄柵は無情にも彼らを分け隔て、彼らは遠くから見つめ合うしかなかった。研究員が彼らに餌を入れていくたびに、彼らをいっしょにしてくれるように祈ったが、いつもそれは失望に変わった。しかし、それだからといって、彼らの思いが募るのを妨げたりはしなかった。遠く離れて眺めるだけの日が愉快に過ぎていった。
ある日、ローラは寂しそうにミートに尋ねた。「ミート、私たちここにどのくらいいるのかしら?」
「ボクもわからないな。どうしてそんなことを?」
「私たち、ずっとこんなふうに離れ離れのままなのかしら。ずっとこんなふうに檻に入れられたままなのかしら。」
「……」
「ミート、どうして答えてくれないの?」
「ボク……このまんまなんていやだ。でもどうすればいいんだろう?」
「……ミート、私を愛してくれている?」
「もちろんさ、ローラ。」
「それなら……逃げ出す方法を考えましょうよ。」
「逃げるって?どうやって逃げるんだ?この檻には鍵がかかっているし、それを開けることもできないよ。」
「方法を考えるのよ。何かいい方法があるはずだわ、ミート。私たちがそう願ってさえいれば。」
「ローラ……」ミートは感激しながらローラを見た。愛、これが愛の力なのか。愛のために、彼はやってみようと思った。
それから、彼らはチャンスをうかがい始めた。研究員が餌を入れるたびに、ミートとローラは特に注意を払った。しかし研究員は未だかつて扉を開けたこともなく、餌は籠の隙間から入れられるのだった。鉄柵はかじっても食い破れるはずもなかった。
ミートはローラに言った。「鉄の檻は固くてじょうぶだ。扉にも鍵がかけてある。待つしかないな。チャンスが来るまで。焦らないで。ボクを信じてくれ。きっといっしょに逃げ出すんだ。」
「うん、信じているわ、ミート。」ローラはしっかり気持ちをこめて答えた。
written by 一線雲児
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≪ミートとローラ【1】≫
2004年4月5日 連載一
科学院の実験室、新しく送られてきたマウスの籠が2つある。白い籠がオスのマウス、青い籠がメスのマウス。研究員は2つの籠をいっしょに置き、餌を入れた後部屋を出る。そして、マウスたちは彼らの新しい家を観察し始める。
白い籠のマウスは名前をミートといい、とても活発だ。しきりに走り回ったり、匂いをかぎまわったり、そこらじゅうひっかきまわったり。そして頭を挙げ外を眺めている。彼は籠に貼りついたり円を描いたりしながらウロウロ見まわしている。透明なガラス皿、高い鉄の台、長方形の試験管台……すべてが目新しい。彼がそうやって見まわしているうちに、ふと向かい側の青い籠の1匹のマウスが目にとまった。そのマウスのほうもちょうど好奇の目で彼を見ていた。ミートはそのマウスを見ながら思った。彼女はとってもきれいだ!その瞳は黒く輝いている。まるで語りかけてくるかのようだ。真っ白でやわらかなからだ、ちっちゃなピンク色の爪、細長く機敏そうな尻尾……こんなきれいなマウスを見たことがない。ミートは喜んで親しげに彼女に向かって手を振った。向こうの方もそれを見て恥ずかしげに笑って、ミートに向かってそっと手を振った。そのまなざしからは好感を持っていることが見て取れた。ミートは自分が彼女に恋をしてしまったのに気づいた。一目惚れというヤツだ、とミートは思った。
それから彼は彼女にいちばん近いところに行って、尋ねた。「お名前を教えていただけますか?」
「ローラよ。」彼女は言った。
「ローラ、うん、よろしくね。友達になってもらえますか?」
「もちろん。」ローラはミートの言葉に喜んでいた。
ローラのはっきりした答にミートは狂わんばかりに喜んだ。そして思った。これが美しい恋愛の始まりになるに違いない。初めてのことだった。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
科学院の実験室、新しく送られてきたマウスの籠が2つある。白い籠がオスのマウス、青い籠がメスのマウス。研究員は2つの籠をいっしょに置き、餌を入れた後部屋を出る。そして、マウスたちは彼らの新しい家を観察し始める。
白い籠のマウスは名前をミートといい、とても活発だ。しきりに走り回ったり、匂いをかぎまわったり、そこらじゅうひっかきまわったり。そして頭を挙げ外を眺めている。彼は籠に貼りついたり円を描いたりしながらウロウロ見まわしている。透明なガラス皿、高い鉄の台、長方形の試験管台……すべてが目新しい。彼がそうやって見まわしているうちに、ふと向かい側の青い籠の1匹のマウスが目にとまった。そのマウスのほうもちょうど好奇の目で彼を見ていた。ミートはそのマウスを見ながら思った。彼女はとってもきれいだ!その瞳は黒く輝いている。まるで語りかけてくるかのようだ。真っ白でやわらかなからだ、ちっちゃなピンク色の爪、細長く機敏そうな尻尾……こんなきれいなマウスを見たことがない。ミートは喜んで親しげに彼女に向かって手を振った。向こうの方もそれを見て恥ずかしげに笑って、ミートに向かってそっと手を振った。そのまなざしからは好感を持っていることが見て取れた。ミートは自分が彼女に恋をしてしまったのに気づいた。一目惚れというヤツだ、とミートは思った。
それから彼は彼女にいちばん近いところに行って、尋ねた。「お名前を教えていただけますか?」
「ローラよ。」彼女は言った。
「ローラ、うん、よろしくね。友達になってもらえますか?」
「もちろん。」ローラはミートの言葉に喜んでいた。
ローラのはっきりした答にミートは狂わんばかりに喜んだ。そして思った。これが美しい恋愛の始まりになるに違いない。初めてのことだった。
written by 一線雲児
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004020609485951
それから、彼は彼女に近づいていき、湖の水面のような安らかで澄んだ目をのぞきこんだ。そのとき、彼は魂を抜き取られるような美しい声を聞いた。「あなたは私とずっといっしょにいたいですか?」
この言葉は彼女が自由な意志を持っていることを意味していた。これはまさに彼の期待通りの結果だった。夜露が彼の額に落ちた。染み透るような冷たさがだんだんと全身に広がっていった。そしてついには彼を完全に包み込んだ。そして、考える暇もなく彼は彼女の名前を叫んでいた。:「Eve、もちろんいっしょにいたいさ!」
「いっしょにいたいさ!」
その言葉が終わらぬうちに、彼は見た。:周りの水のカーテンがそれと同時に蒸気と化し、瞬く間に影も形もなく空気の中に消えてしまったのだ。水のカーテンの背後には果てしない広野と大空が広がっていた。―――頭では想像できないほど広い、どんな言葉をもってしても表現できないほど広い(残念ながら、“広い”としか言いようがありません)世界だった。
しかし、彼が水のカーテンを通り抜けるとき、2種類の音がはっきりと彼の耳に響いた。
左の耳に届いたのは、以前の世界での最後の彼のうめき声だった。
右の耳に届いたのは、彼女が彼を呼ぶ声だった。「Eden、こんにちは。」
水、それは彼が通ってきた道に過ぎなかった。しかし今、「彼は死んだ。」とか、「彼は生まれ変わったのか?」とか言えるのだろうか?そして、彼がひとつの世界を去り、もうひとつの世界を創り出した、ということをだれが想像できるのだろうか?
written by 發炎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004030209405236
この言葉は彼女が自由な意志を持っていることを意味していた。これはまさに彼の期待通りの結果だった。夜露が彼の額に落ちた。染み透るような冷たさがだんだんと全身に広がっていった。そしてついには彼を完全に包み込んだ。そして、考える暇もなく彼は彼女の名前を叫んでいた。:「Eve、もちろんいっしょにいたいさ!」
「いっしょにいたいさ!」
その言葉が終わらぬうちに、彼は見た。:周りの水のカーテンがそれと同時に蒸気と化し、瞬く間に影も形もなく空気の中に消えてしまったのだ。水のカーテンの背後には果てしない広野と大空が広がっていた。―――頭では想像できないほど広い、どんな言葉をもってしても表現できないほど広い(残念ながら、“広い”としか言いようがありません)世界だった。
しかし、彼が水のカーテンを通り抜けるとき、2種類の音がはっきりと彼の耳に響いた。
左の耳に届いたのは、以前の世界での最後の彼のうめき声だった。
右の耳に届いたのは、彼女が彼を呼ぶ声だった。「Eden、こんにちは。」
水、それは彼が通ってきた道に過ぎなかった。しかし今、「彼は死んだ。」とか、「彼は生まれ変わったのか?」とか言えるのだろうか?そして、彼がひとつの世界を去り、もうひとつの世界を創り出した、ということをだれが想像できるのだろうか?
written by 發炎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004030209405236
≪夢死【7】≫
2004年3月31日 これはひとりで成し遂げるには最も難しい作業だった。そのため、彼は以前にも増して多くの時間を注ぎ込まなければならなかった。そして、必要な食事の時間さえすべて捨て去る決意をした。
彼は彼女のために静かな草地を探した。そこでは野の花が咲き点々と赤や緑の宝石を付けていた。数十回の熱さ寒さの変化に鍛えられ、しばらくするとエネルギーに満ち溢れた赤黒い心臓をはっきりと目にすることができるようになっていた。それに続く数日間で、めいっぱい心をこめた言葉と、自分のほんとうの気持ちと希望、そして手に入れることができる最高の材料で、全身全霊を込めて彼女の縦横に走る血管と、すらりとして強靭な骨格、そして彼女の周囲のことに対する知識を作り上げた。……もちろん、彼女の限りない優しさと、彼に対する思い、愛情も作るのを忘れてはいなかった。この高度な緊張を強いる頭脳労働で、彼は自分が疲労困憊して体力も限界に達していることにまったく気づきもしなかった。4日目の満月の夜、林の中にハッカン(鳥の名)の泣き声が響き、1滴の夜露が木の葉の上に結んだ。彼は、彼女の美しさと優しさ、比類なき容貌を見ることができた。しかし、角度の問題からか、彼女の長い睫毛のせいなのか、彼女の目に浮かぶ色つやを捉えることはできなかった。しかし彼は思った。:「そんなこと大したことではない。大切なのはオレとオレの愛する人がいっしょにいられることなんだ。」
written by 發炎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004030209405236
彼は彼女のために静かな草地を探した。そこでは野の花が咲き点々と赤や緑の宝石を付けていた。数十回の熱さ寒さの変化に鍛えられ、しばらくするとエネルギーに満ち溢れた赤黒い心臓をはっきりと目にすることができるようになっていた。それに続く数日間で、めいっぱい心をこめた言葉と、自分のほんとうの気持ちと希望、そして手に入れることができる最高の材料で、全身全霊を込めて彼女の縦横に走る血管と、すらりとして強靭な骨格、そして彼女の周囲のことに対する知識を作り上げた。……もちろん、彼女の限りない優しさと、彼に対する思い、愛情も作るのを忘れてはいなかった。この高度な緊張を強いる頭脳労働で、彼は自分が疲労困憊して体力も限界に達していることにまったく気づきもしなかった。4日目の満月の夜、林の中にハッカン(鳥の名)の泣き声が響き、1滴の夜露が木の葉の上に結んだ。彼は、彼女の美しさと優しさ、比類なき容貌を見ることができた。しかし、角度の問題からか、彼女の長い睫毛のせいなのか、彼女の目に浮かぶ色つやを捉えることはできなかった。しかし彼は思った。:「そんなこと大したことではない。大切なのはオレとオレの愛する人がいっしょにいられることなんだ。」
written by 發炎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004030209405236
さらに多くの時間を夢見ることに使うために、彼は家を売って金に換え、蓄えを注ぎ込んで充分な食物等の生活必需品を買い、人が足を踏み入れることもないようなこの森にやって来た。人里離れて孤独に暮らし、計画の進度をスピードアップした。
彼は計画的に毎日の睡眠時間を長くしていった。―――16時間、18時間、20時間、22時間……これは難しいことではなく、しようと思っただけですぐ実現した。
彼は太陽、月、星、川や山、草花樹木、鳥や獣も完成させ、ついにはすべての葉の色まで変えてみせた。今ではこの世界は(すべての仔細を含めて)すべて完成している。頭の上をゆっくりと流れる300種類の色を使った雲を見ながら、彼は思った。:これらすべては、オレが創り出したのだ!
そうだ。これはコピーなどではなく、創造、そう、創造されたのだ!彼は初めから現実のものの仔細を考えたりせず、ただ自分の好みに従っただけなのだから。これは完全なる創造だった。
20数年経って初めて、彼は暇な時間ができた。そしてすぐ、この問題に思い至った。:この世界で、いちばん何がほしいのか?
当然、女だ。彼はもう一度そう言った。
written by 發炎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004030209405236
彼は計画的に毎日の睡眠時間を長くしていった。―――16時間、18時間、20時間、22時間……これは難しいことではなく、しようと思っただけですぐ実現した。
彼は太陽、月、星、川や山、草花樹木、鳥や獣も完成させ、ついにはすべての葉の色まで変えてみせた。今ではこの世界は(すべての仔細を含めて)すべて完成している。頭の上をゆっくりと流れる300種類の色を使った雲を見ながら、彼は思った。:これらすべては、オレが創り出したのだ!
そうだ。これはコピーなどではなく、創造、そう、創造されたのだ!彼は初めから現実のものの仔細を考えたりせず、ただ自分の好みに従っただけなのだから。これは完全なる創造だった。
20数年経って初めて、彼は暇な時間ができた。そしてすぐ、この問題に思い至った。:この世界で、いちばん何がほしいのか?
当然、女だ。彼はもう一度そう言った。
written by 發炎
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≪夢死【5】≫
2004年3月29日 彼はこの魅力的な計画のために生活を調整した。眠るときの格好も、仕事と休憩の時間も、調整し、厳密に計画を立てて食事し(夢を見る作用のある食べ物、カラシやヒマワリ、蜜等しか摂らなかった)、鍼灸治療をして(漢方には不眠を治し夢を多く見る鍼灸術がある。彼は向かい合っているツボを探すだけでよかった。例えば、解渓、然谷等のツボだ)、ドアを閉めてひとりでいるようにし、このことだけに没頭した。孤独にならなければ、彼は自分に言い聞かせた。孤独にならなければいけない。これは創造者の運命だ。外からの影響はつまらぬ真似事を身につけさせるだけで、ほんとうの創造者になることはできないのだ。
安定した光の中、彼は自分の思い描いた世界を配置し始めた。しかし、新しい世界の中のものが増えてくると、ものが思い通りにはなっていないことがわかり、つらい思いをした。例えば、前の日沼の北側にあった山が、次の日には自分勝手に南側に移ってきていたり、といった具合だ。この混乱を克服するために、彼は何度も間違いを修正しなければならず、さらに多くに時間を夢見ることに投入しなければならなかった。
……
written by 發炎
安定した光の中、彼は自分の思い描いた世界を配置し始めた。しかし、新しい世界の中のものが増えてくると、ものが思い通りにはなっていないことがわかり、つらい思いをした。例えば、前の日沼の北側にあった山が、次の日には自分勝手に南側に移ってきていたり、といった具合だ。この混乱を克服するために、彼は何度も間違いを修正しなければならず、さらに多くに時間を夢見ることに投入しなければならなかった。
……
written by 發炎
≪夢死【4】≫
2004年3月28日 それなら、世界でいちばん単純なものとは何だろう?
そうだ、光だ!光以外に、彼のこの偉大な仕事を着手すべきところがあるだろうか?光の明暗の間にさまざまな層があることはとりあえず無視して、必要な明るさのものだけ作り出せばいいのだ!
そして、彼は言った。:「もし光があれば。」
夢の中に光が現れた。
この光の力を借りて、彼は自分の新たな夢の世界を見てみた。まるで初めて部屋に入ったような感じだった。広々とした場所が一望できた。周りは以前からよく知っている水だった。水のカーテンが空から地面まで掛かっている。光の輝きで変幻自在だった。
しかし、これは到底成功とは言えなかった。なぜなら次の日(ある人に言わせれば2年目とも言う)の夜、彼はまた夢の世界に入った後、この光が輝きを失っているのを見て失望することになるのだ。
すぐにできることなどないのは当たり前だ。彼は自分を慰めた。
どれぐらい経っただろう。彼はこの問題をとうとう克服した。:夢の世界を完全に取りこぼしなく、元通り次の日まで保存することができたのだ。
今では自信満々で、さらに複雑で日ごとに見事さを増す世界を構築することができるようになった。彼は心の中の世界を外の世界より美しく、バランスの取れたものにし、すべての醜悪なものを外の世界から入れないようにしようと思った。
written by 發炎
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そうだ、光だ!光以外に、彼のこの偉大な仕事を着手すべきところがあるだろうか?光の明暗の間にさまざまな層があることはとりあえず無視して、必要な明るさのものだけ作り出せばいいのだ!
そして、彼は言った。:「もし光があれば。」
夢の中に光が現れた。
この光の力を借りて、彼は自分の新たな夢の世界を見てみた。まるで初めて部屋に入ったような感じだった。広々とした場所が一望できた。周りは以前からよく知っている水だった。水のカーテンが空から地面まで掛かっている。光の輝きで変幻自在だった。
しかし、これは到底成功とは言えなかった。なぜなら次の日(ある人に言わせれば2年目とも言う)の夜、彼はまた夢の世界に入った後、この光が輝きを失っているのを見て失望することになるのだ。
すぐにできることなどないのは当たり前だ。彼は自分を慰めた。
どれぐらい経っただろう。彼はこの問題をとうとう克服した。:夢の世界を完全に取りこぼしなく、元通り次の日まで保存することができたのだ。
今では自信満々で、さらに複雑で日ごとに見事さを増す世界を構築することができるようになった。彼は心の中の世界を外の世界より美しく、バランスの取れたものにし、すべての醜悪なものを外の世界から入れないようにしようと思った。
written by 發炎
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しかし、19歳の年のある朝、たまたま複雑で散らかった夢の世界を思い出しているときのことだった。彼はとても驚いた。;今まで何千何万と夢を見てきたが、どうしてどの夢にも水が出てきたのだろう?いつも水が夢に出てくる。どの夢の中にも。
そしてすぐ、ある考えがひらめいた。;そうだ。夢には何か意味があるんじゃないのか!お告げみたいなものなんだ。夢の内容は保存できるということだ。もしこれがほんとうなら、夢の世界は創り出せるということだ。少しずつ付け加えができるとしたら、夢の中に光り輝く宮殿を造ることができる。
この後、彼は世界でいちばんまじめに夢を見る人になった。
しかし、しばらくすると、はっと気がついた。一挙にそんな夢の宮殿を建てようたって無理だ。夢の中には何もかもそろっているから、その複雑さは現実世界に勝るとも劣らない。
彼にはわかった。;いちばん小さなものから、いちばん単純なものから、用心深く一歩一歩彼のあこがれの世界を構築していかなければならないのだ、と。
しかし、世界でいちばん単純なものとは何だろう?どんな小さなものでも、アリ一匹にしたって、砂一粒にしたって、みな複雑な面を持っている。表面上は単純でも、内部はわからない。それに、ものは例外なく近づいて細かいところまで見れば見るほど複雑になる。内部の複雑さがものを系統立てていると言えるかもしれない。
written by 發炎
http://wind.yinsha.com/letters/show.phtml?aid=2004030209405236
そしてすぐ、ある考えがひらめいた。;そうだ。夢には何か意味があるんじゃないのか!お告げみたいなものなんだ。夢の内容は保存できるということだ。もしこれがほんとうなら、夢の世界は創り出せるということだ。少しずつ付け加えができるとしたら、夢の中に光り輝く宮殿を造ることができる。
この後、彼は世界でいちばんまじめに夢を見る人になった。
しかし、しばらくすると、はっと気がついた。一挙にそんな夢の宮殿を建てようたって無理だ。夢の中には何もかもそろっているから、その複雑さは現実世界に勝るとも劣らない。
彼にはわかった。;いちばん小さなものから、いちばん単純なものから、用心深く一歩一歩彼のあこがれの世界を構築していかなければならないのだ、と。
しかし、世界でいちばん単純なものとは何だろう?どんな小さなものでも、アリ一匹にしたって、砂一粒にしたって、みな複雑な面を持っている。表面上は単純でも、内部はわからない。それに、ものは例外なく近づいて細かいところまで見れば見るほど複雑になる。内部の複雑さがものを系統立てていると言えるかもしれない。
written by 發炎
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